2022年1月17日
東レ株式会社
完全塗布法によりフィルム上に半導体回路を実現
-RFID、センサーの無線動作を実証-
東レ株式会社(本社:東京都中央区、代表取締役社長:日覺昭廣、以下「東レ」)は、このたび、高性能半導体カーボンナノチューブ(半導体CNT)複合体1)を用いてフレキシブルなフィルム上に半導体回路を塗布形成する技術を確立し、汎用のフィルム上にRFIDやセンサーを作製して無線動作することを実証しました。
今回の成果は、レジの自動化や在庫管理の省力化など、小売・物流の効率化が期待されているUHF帯2)RFIDへの適用に加え、偽造防止などのセキュリティー分野や医療・介護現場で活用できるセンサーなど幅広い用途への展開が見込まれます。今後、社外パートナーと連携してシステムやアプリケーションの開発を進め、早期の製品化を目指してまいります。
フィルム上への半導体回路形成は、有機半導体を中心に新しい材料や塗布方法の開発が進められていますが、半導体性能を示す移動度3)は20cm2/Vs程度と低く、高性能化が課題でした。
これに対して東レは、2020年に独自の半導体CNT複合体技術により塗布型では世界最高の移動度182cm2/Vsを達成するとともに、低消費電力な相補型半導体(CMOS)回路4)形成に必要なp型とn型両方の半導体形成を実現し、インクジェット法を用いてガラス基板上にRFIDを作製して、UHF帯電波で無線通信できることを実証しています。しかしながら、フィルム上に半導体回路を形成しようとすると、工程中にフィルムが伸縮して配線や電極の位置ずれが生じ、性能が低下する問題がありました。
今回、各材料改良によるプロセスの低温化・短時間化に取り組み、フィルムの伸縮を抑制するとともに、東レエンジニアリング株式会社(本社:東京都中央区、代表取締役社長:岩出卓)が開発した形状追従型高精度インクジェット技術を適用することにより、CMOS回路を始めとする様々な半導体回路や整流素子5)、メモリーをフィルム上に精度よく塗布形成する技術を確立しました。これらの要素技術とアンテナを組み合わせて、汎用のポリエステルフィルム上にRFIDを作製し、UHF帯無線での通信を達成しました。また、本技術を活用して無線通信機能を有するセンサーを作製し、無線で水分を検出することにも成功しました。これにより、小売・物流分野や偽造防止などのセキュリティー分野のほか、排尿検知など医療・介護現場への適用も期待できます。
本技術はフィルム上に半導体回路を直接塗布形成できるため、設計自由度が高く、小ロットのニーズから対応できます。まずは本特徴を生かした小ロット・近距離無線通信用途から実用化を図り、実績とコストダウンを積み重ねることで、幅広い用途に展開していく計画です。
なお、今回の成果は、1月26日(水)~28日(金)に東京ビックサイトで開催される「nano tech 2022(第21回国際ナノテクノロジー総合展・技術会議)」に出展予定です。
東レは、滋賀事業場に設立した未来創造研究センターのイノベーション・ハブ機能を活用し、重要パートナーとの連携による戦略的オープンイノベーションを促進し、システム・アプリを含めたソリューション提案を加速しています。「わたしたちは新しい価値の創造を通じて社会に貢献します」の企業理念の下、社会を本質的に変えるような革新的な素材の開発に取り組んでまいります。