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2010年8月26日
日本市場にもひそむ過剰品質問題
チーフエコノミスト
増田 貴司

 最近、新興国市場を開拓するために、現地の市場特性やニーズを踏まえた専用仕様の低 価格製品を開発し、投入する日本企業が増えている。これまでの高付加価値路線を修正し、 新興国の顧客向けに機能を絞り込んで、製造コストを下げる取り組みが活発化している。  企業が高いものづくり能力を発揮して、凝った製品をつくっても、新興国の顧客がそれ を評価して対価を支払ってくれなければ意味がない。この当然の事実に気付いたことが、 日本企業の行動変化の背景にある。  要は、つくり手がこだわる「高付加価値」と顧客が求める価値にギャップがあったわけ であるが、こうしたギャップに気付く必要があるのは、新興国市場向けのものづくりだけ ではない。国内市場でも同様のギャップが生じている点を見逃してはならない。  かねて日本の消費者は要求水準が高く、洗練された「うるさい」顧客だという定評があ るが、昨今は少し様子が変わってきた。日本人の感性が変化し、モノに対するこだわりが 小さくなりつつあるようだ。音質にこだわるオーディオマニアは激減し、アナログレコー ドはおろかデジタル CD よりも情報量がはるかに乏しいネットからダウンロードしたコン テンツで満足する若者が増えている。  欧米のファストファッションは安くておしゃれでも、素材が安っぽく縫製が雑なため日 本市場では受け入れられないとの声もあったが、日本に出店するや否や、若い消費者の圧 倒的な支持を集めた。  これらの事例は、国民の価値観や感性の変化に伴い、日本企業の製品は日本の消費者に とっても過剰品質になっている可能性があることを示している。このズレ(過剰)が解消 される過程では、国内市場でもその商品の品質と価格の常識が崩壊し、価格競争の激化と 値崩れが起こることに留意が必要だろう。 (本稿は、2010 年 8 月 25 日 日本経済新聞夕刊「十字路」に掲載されました)