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2012年9月1日
日本人ってリスクが取れない民族なの?
チーフエコノミスト
増田 貴司

 「日本人は水と安全がただと思っているので、リスク認識やリスク管理が苦手だ」 昔はよくこう言われましたが、最近は様子が変わってきました。  東日本大震災以降、多くの国民が地震や津波、放射性物質のリスクを意識するようになりました。防災グッズ売り場にはさまざまな新商品が並び、消費者の関心を集めています。気象情報をチェックし、記録的大雨を警戒し、熱中症予防に取り組む人が増えました。長距離高速バスを利用する時に、運転手の交代要員の有無を確認してバス会社を選ぶ時代になりました。  まさに現代はリスクの時代です。でも、リスクをいたずらに怖がり、避けているだけでは、私たちは幸せになれないでしょう。  最強の棋士、羽生善治氏は、「リスクを取らないことが最大のリスク」と語っています(著書『大局観』)。「新しい作戦を実践で試すリスクを冒さない限り、プロ棋士としての成長はない」と断言しています。  私たちはこの羽生氏の教えを肝に銘じる必要があると思います。キャッチアップの時代を終え、世界に先駆けて困難な課題に直面する日本という国に生きる私たちは、リスク回避最優先の「事なかれ主義」では前進できません。課題解決を実現するイノベーションを起こすためには、誰もやったことのない挑戦に踏み出す勇気が不可欠です。  こう考えた時に、筆者はどうしてもある事柄を思い出してしまいます。それは、「日本人はリスクを取って変革を進めるのが苦手な国民だ」という有力説です。  オランダ人で文化的多様性の研究者であるホフステードは、世界のIBM 社員を対象に行った分析結果から、日本は「不確実性の回避」の度合いが最も強い国の1 つだと指摘しています(『多文化世界』)。日本社会は不安を感じやすく、変化を好まず、既存の秩序を重んじる特徴があるとされました。  この日本人の特性には文化的要因だけでなく、ある遺伝子が関係していることが最近の研究で明らかになっています。その遺伝子の名は「セロトニントランスポーター遺伝子」で、これを持つ人は不安や恐怖を感じる傾向が強いそうです。この遺伝子保有者の割合が最も高い民族が日本人なのです。  こんな研究成果を突き付けられると、「日本人は民族的にリスクを取れない運命にあるのか」と、無力感に襲われそうです。でも、あきらめてはいけないと思うのです。私の好きなマキャベリの名言にこんな言葉があります(『君主論』、筆者が一部要約)。  運命が人間の行動の半分を決めるが、もう半分は私たちの力量に任されている。運命を超える意志を持って生きることが重要だ。慎重であるよりは果敢であるほうがよい。なぜなら、運命の神は女神だから、彼女を征服しようと思えば、冷静に対処するより乱暴に扱うことが必要だ。  この後半の比喩は、日本の中高年男性が同じことを言ったら、「セクハラだ、DV だ」と張り倒されそうです。草食系男子には想像すらできない例えでしょう。それはともかく、運命を超える意志を持てというマキャベリの教えは、今の日本人にとって貴重です。  運命だとあきらめず、リスクを取って新しいことに挑戦する勇気を持とうではありませんか!