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2019年2月11日
中国は米国との貿易戦争を乗り切れるのか
シニアエコノミスト
福田 佳之

本格化する米中貿易戦争  米中間において貿易戦争が本格化している。2018年春ごろから米中双方で関税引き上げを応酬している。2018年12月から始まった米中通商協議の進捗によって米国はさらに関税を引き上げる可能性もある。  米中貿易戦争は貿易だけにとどまらない。中国通信機器大手のZTEに制裁を加えたり,同じく通信機器大手のファーウェイの副会長がカナダで逮捕されたりしている。ペンス副大統領が2018年10月に行った演説で「トランプ政権は米国の利益と雇用,安全保障を守るために断固として行動をとり続ける」と述べた通りである。筆者が注目するのは中国のメモリー大手である福建省晋華集成回路(JHICC)に対して米国企業から企業秘密を盗んだということで米国からの半導体製造装置などの輸出を禁止したことである。  中国は「中国製造2025」で半導体自給率の引き上げを掲げており,現時点で15%未満の自給率を2020年に40%,2025年に70%まで高めていく予定である。メモリーの国産・量産を狙うJHICCなどの中国企業にとってこうした米国の制裁措置発動は打撃を与えている。 中国は覇権を狙っているのか  中国は米国から覇権(ヘゲモニー)を奪おうとしているのだろうか。「中国製造2025」では次世代情報技術など10の重点分野と23の品目について市場シェア等の目標を設定して政策支援を行い,2049年には製造強国の先頭に立つことをうたっている。中国は先端技術の開発・導入をもって世界で優越的な地位を占めたいという意図が見える。  国家が先端技術を獲得することで覇権を握ろうとする動きについては薬師寺泰蔵氏の名著「テクノヘゲモニー」(1989年,中公新書)がある。かつて英国が覇権を握り,現在,米国が覇権を握っている。その土台には当時において国家経済を支えた競争優位の技術が存在する。現代でいえばAIとロボットの技術がそれにあたるだろう。これらの技術は社会課題解決の必要性と政府の政策誘導が背景にあって誕生し,さらに企業が外部の知識を活用しながら相互で競争することで開発されてきた。これらの技術を国家が活用することで他国よりも優越的な地位を占めることに成功しているため,こうした技術の流出を覇権国が許すわけがない。 米中対立の長期化に備え必要  「テクノヘゲモニー」によると,ある国家がヘゲモニーを確立したかを判断するには,ある国が周辺の国に恩恵を与えるなどの関係を作り,その結果として,その国のやり方に進んで従う国が存在するかどうかである。かつての英国はフランスやカナダなどに対する関税率を引き下げた。その結果,これらの国の企業は自社製品を英国市場に輸出して収益を上げることができたため,フランスやカナダなどは進んで英国主導の通商体制に入った。米国もマーシャルプランなどによる援助を欧州や日本に与えており,これらの国は西側諸国として米国の同盟国となった。  中国には進んで従う国が存在するかというと筆者は否定的に考えている。折しも中国は経済・外交圏構想である「一帯一路」を推し進めているが,対象国は構想の中のインフラ整備や貿易・通商の促進に賛意を示すものの,中国の覇権姿勢に警戒心を捨てきれず,中国の影響に進んで入りたいという国が見てとれない。  今後の米中対立について中国は米国の強硬姿勢に対してひとまず妥協を強いられるが,このままでは終わらない。中国は先進技術の国産化を進めると同時に,日本を含め周辺国に甘いアメをばらまくのではないか。米中対立は局面によっては緊張緩和したとしても最終解決とはならず,長引くだろう。日本の政府や企業はその時々で一喜一憂することなく,長期的な視点で米中対立に備えておかねばならない。 (本稿は、国際貿易投資研究所(ITI) 2月11日付「世界経済評論IMPACT」に掲載されました)