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2006年6月1日
大切にしたい旧暦の季節感

 6月は梅雨(ばいう=つゆ)の季節です。カビが生える時期なので黴雨(ばいう)とも書かれます。旧暦では「五月雨(さみだれ)」でした。松尾芭蕉の俳句に『五月雨をあつめて早し最上川』という名句がありますが、梅雨時に降る雨のことを「五月雨」と言いました。実は「五月晴れ」というのは「梅雨の間の晴れ間」のことです。従って、新暦の五月に「真っ青な空、今日は素晴らしい五月晴れですねえ」などという挨拶を交わしたら本当はあやまりです。  わが国は明治6年(1873)に、それまで使用されていた旧暦=太陰太陽暦(「天保暦」)を廃止し、欧米諸国で実施されていた新暦=太陽暦(「グレゴリオ暦」)を採用しました。その後しばらくは併行して使われていましたが、明治43年(1910)に国家機関は旧暦には一切関与しなくなりました。地球の公転周期に対して誤差の少ない太陽暦の採用は、欧米列強との対等な関係を築くためにも、当時としては自然な流れであったのでしょう。  ところが、私たちの生活習俗や文化のなかには旧暦が溶け込んでいるものも多いようです。特に年中行事では新暦に置き換えた結果、かなりの混乱と違和感が放置されているように感じます。いくつか例を挙げて対比してみましょう。本来の旧暦で実施したほうが、現在の季節感と一致しているのは明白でしょう(以下新暦=新、旧暦=旧と表記。今年の例)。 ・桃の節句(雛祭) (新3月3日/旧2月4日、旧3月3日/新3月31日): 桃は2月には咲いていませんね。お雛様には寒すぎて気の毒です。 ・端午の節句 (新5月5日/旧4月8日、旧5月5日/新5月30日): 「甍の波と雲の波...橘香る朝風に高く泳ぐやこいのぼり」ミカン科橘の花も5月初旬には咲いていません。 ・七夕祭り (新7月7日/旧6月12日、旧7月7日/新8月30日): 一生懸命書いた短冊も雨にぬれ「天の川」も見えず、子供達ががっかりすることが多いのも当然でしょう。梅雨時にお祭りをしているのですから。この時期子供たちは「お星様きらきら...」と実感の伴わない歌詞を、当日を楽しみに何度も練習をしているのです。 ・十五夜(中秋の名月) (新8月15日/旧7月22日、旧8月15日/新10月6日): お月見には欠かせない薄(ススキ)は10月以降に茂ります。新暦で実施した場合は暑くてお団子も腐りそうです。  上記以外でも、立春(新2月4日/旧3月3日)、立夏(新5月6日/旧6月1日)、立秋(新8月8日/旧9月29日)、立冬(新11月7日/旧12月26日)などは旧暦の方が実感と一致します。  秋の紅葉を満喫中の11月初旬に、天気予報士が「暦の上ではもう冬ですね」と、コメントすることがあります。せき立てられるようで、その季節の旬を楽しむことを飛ばされる感じがします。方策はいろいろあると思います。私たちの祖先が長い歴史の中で築きあげてきた繊細な季節感や感性、叙情性をもっと大切に守ろうではありませんか。