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2021年12月27日
【世界経済評論IMPACTコラム原稿】
どうして日本の実質賃金は低迷するのか
部長(産業経済調査部)
 チーフエコノミスト
福田 佳之

日本の賃金は過去20年間3.7~3.9万ドルの間で足踏み  過去20年間、日本の賃金や所得は低迷している。この点について、外国の賃金の動きや水準と比較すると明白である。OECD35カ国平均でみた実質賃金(年収)は概ね上昇基調で推移しており、2000年の4万2,160ドル(2020年実質価格ベースによる購買力平価米ドル換算)から2020年には4万9,165ドルと7,000ドル程度上昇した。一方、日本の実質賃金はというと、2000年時点で3万8,365ドルとその時点で同平均から低く、その後20年の間においても3万7,000~3万9,000ドルの間で推移し直近の2020年の水準は3万8,515ドルと2000年時点とほぼ変わらなかった。OECD35カ国平均から1万ドル以上引き離され、順番でいえば22番目であった。米国(6万9,392ドル)やドイツ(5万3,475ドル)はおろか、韓国(4万1,960ドル)にも及ばない。  なお、日本と同じように賃金が低迷している国として、スペイン、イタリア、ポルトガル、ギリシャなどがある。このような国際比較から、日本の置かれた状況に違和感を覚えないのはまずいだろう。 設備投資不足が賃金低迷に影響  日本の賃金低迷について識者の間でも議論されており、安価な非正規雇用へのシフト、人材育成が不十分、医療・福祉分野での規制の存在など指摘されている。だが、長期的な実質賃金の水準や上昇率に影響を及ぼすのは、雇用者もしくは労働時間当たりの付加価値、つまり労働生産性である。実際、実質賃金の上昇率について労働生産性と労働分配率と物価比率に分解すると、実質賃金と労働生産性が連動していて最近まで両方ともに低下してきたことがわかる。  労働生産性を上昇させるには、設備投資の拡大が不可欠だ。確かに資本装備率を高めることで労働生産性を上昇させることができる。だが、日本国内での企業の設備投資意欲は低く、この20年間の民間資本ストックの積み上げは1割程度に過ぎない。この間3割から4割増加させた英米など海外に比べてかなり見劣りする。こうした日本の低投資の状況ではオペレーションの改善や多少のイノベーションぐらいでは海外と同じペースで労働生産性を向上させていくのは難しい。  これまで日本国内の設備投資が低水準であった理由として、まず日本経済の成長率見通しが海外に比べて低いことがある。次に、日本企業の海外市場攻略のための設備投資は、対外直接投資を実施して生産などの事業拠点を設ける「地産地消」の方針であり、輸出用の国内設備投資を行う誘因に乏しかった。さらに、日本企業の横並び発想は新たな設備投資についてどちらかといえば慎重にさせた一方、非正規雇用へのシフトなどで労働コスト削減と収益確保にいそしむことになった。また、終身雇用などを抱えて余力のなくなった日本企業が設備投資を満足にできなかったともいえる。 アニマルスピリットの復活がカギ  筆者がこれまでの日本企業の動きで気になる点は、まず、最近まで海外への動向の関心が薄いことだ。例えば、内外でDXの動きが盛んだが、そのビジョンの先駆けであるドイツの「Industrie 4.0」が唱えられたのは2011年であったが、日本で同様のビジョンである「Society 5.0」が提唱されたのは2016年になってからであった。日本は既に後発組であり、海外の先進国や企業から学ぶという姿勢が必要だろう。  次に、過去20年間において日本企業は生産性の低さを気にかけ、効率性向上やイノベーション促進に努めた一方、生産増強による量を追うことをなおざりにした点だ。これは過剰設備に悩まされ、日本企業こぞってITを含めた設備投資に二の足を踏んだ部分もあるのだろう。今後DXやグリーン投資が求められる中、アニマルスピリット(企業家の野心的な意欲)の復活こそ日本企業に求められるのではないか。 (本稿は、国際貿易投資研究所(ITI)12月13日付「世界経済評論IMPACT」に掲載されました)