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2010年10月12日
日本企業は日本を捨てたのか
チーフエコノミスト
増田 貴司

 最近、日本企業がこぞってアジア新興国など海外の有望な市場へ活動の軸足を移しつつ ある。円高対応として安い人件費を求めた企業の生産拠点の海外移転が活発化している。 さらに、高成長が見込まれるアジア新興国市場を開拓するための海外シフトの動きが後を 絶たず、国内の空洞化懸念が強まっている。  これを見て、「とうとう日本企業が日本を捨て始めた」とセンセーショナルにとらえるの は必ずしも正しくない。今起きているのは、従来「まずは国内市場ありき」で国際化を進 めてきた日本企業が、最初から世界市場を視野に入れて構想し、その中で日本の位置づけ を考える真のグローバル企業への変身に挑み始めた現象と理解すべきだ。  人口減少下の日本で国内市場が縮小する一方、新興国市場が先進国市場に代わってビジ ネスの主戦場になったという環境変化を踏まえ、生き残りのために内外分業体制の再構築 を行っているのである。  ボーダレスの時代に国が経済政策を国境の中だけで考えることはできないし、外へ出よ うとする企業を国内に縛りつけることは不可能だ。国はこうした企業のグローバル戦略を むしろ支援すべきだろう。日本企業が新たな価値を生み出すイノベーションを国内で起こ し、それを世界にもたらして、海外で稼いだ利益を国内に還元する活動を促す政策を推進 すべきである。  現実には、たとえば新薬開発では、日本は治験(臨床試験)にかかるコストが海外より 高いため、国内製薬企業でさえも治験を日本ではなく海外で行う例が増えている。  このような空洞化に歯止めをかけるには、企業が日本でイノベーションを起こす気にな るようなビジネス環境を地道に整備していくしかない。海外の優れた人材や企業を国内に 呼び込み、成長の原動力にしていくオープンな政策こそが空洞化対策の要となるだろう。 (本稿は、2010 年 10 月 7 日 日本経済新聞夕刊「十字路」に掲載されました)