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2012年4月6日
企業の海外進出と空洞化
チーフエコノミスト
増田 貴司

 製造業の海外生産シフトが進み、国内産業の空洞化が問題になっている。一方で、企業 の海外進出が増えると、国内は空洞化するどころか、中長期的には投資収益増加などの恩 恵を受けて国内の雇用も増加するという考え方が主流となってきた。最近では国や自治体 が地場企業を国内に引き留めるのではなく、その海外展開を積極的に支援する政策を採用 し始めている。  「企業の海外進出を促すことで国内の空洞化を回避する」という逆説的な方策が成功す るためには前提条件があるように思う。  1 つ目は、海外進出した企業が本社機能や研究開発部門を国内に残し、海外で稼いだ利益 を国内に還流させて国内で投資するという前提である。2 つ目の前提は、日本企業の海外工 場での最終製品の生産が増えるほど、それをまかなう先端部材の日本からの輸出が増加す るという、日本特有の国際分業形態が今後も維持されることだ。  これらの前提が満たされる保障はない。円高、高い法人税率、電力供給の制約、厳しい 労働規制などを背景に、国内立地に見切りをつける企業が増えれば、海外で稼いだ利益は 海外で再投資され、国内に還流しない。東日本大震災後、アジア諸国が手厚い優遇措置を 提示して日本企業の誘致に注力していることも忘れてはならない。  2 つ目の前提も危うい。先端部材でも海外への生産移転が進み、海外生産拠点での部材の 現地調達比率が高まっているため、日本から現地向けの部材輸出が以前ほど増えなくなっ ているからだ。  以上から、企業の海外進出を支援するだけでは、企業は強くなっても、国内の空洞化回 避に必ずしもつながらないと言える。企業が国を選ぶグローバル化の時代の国家経営は、 国内を魅力ある投資環境に整備し、その国土で企業に存分に活動してもらう努力なしには 成り立たないのだ。 (本稿は、2012 年 4 月 5 日 日本経済新聞夕刊「十字路」に掲載されました)