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2012年6月6日
挑戦を応援する社会
チーフエコノミスト
増田 貴司

 ロボット技術はかねて日本の得意分野とされてきた。なのに、なぜ日本企業は米アイロ ボット社の人気商品「ルンバ」のようなロボット掃除機を世に出すのが遅れたのか。  有力な理由は 100%の安全性が確保できないことだったといわれている。お掃除ロボット が物を壊したり、火事の原因になったりする可能性が排除できないからだ。交通事故を起 こす可能性があることを理由に、乗用車販売をやめる自動車メーカーは存在しないことか らすれば、これは行き過ぎたリスク回避のように見える。しかし、これまでにない概念の 商品を手掛けるとなると、日本企業は極端に慎重になりがちだ。  グローバル化の時代に斬新な製品を世に出して勝つためには、国際標準作りを主導する ことが重要だ。だがルール作りは日本企業の苦手分野である。ここでも、リスクを嫌う日 本企業の習性が影響している。  日本ではルールは外から与えられ、それに従うものという意識が強い。自社の事業のた めに新しいルールを作ったり、解釈の余地がある規則を自分で解釈したりする手間とリス クを取りたがらない傾向があるようだ。  近年、日本ではウォークマン級の革新的な新商品が生まれなくなった背景には、こうし たリスク回避最優先の姿勢があると思われる。日本企業が独創的なアイデアをいち早く着 想し、技術的には完成させていながら、リスクが取れないために事業化できず、海外企業 に先を越される例が少なくない。  課題先進国の日本で課題解決を実現するイノベーションを起こすには、他国がやったこ とのない社会的実験やルール作りに踏み出す勇気が欠かせない。事なかれ主義を脱し、未 来を切り開くためにリスクを取って挑戦する人を尊敬し応援する社会、試行錯誤の失敗に 寛容な風土を、産学官一体でつくり出すべきだ。 (本稿は、2012 年 6 月 5 日 日本経済新聞夕刊「十字路」に掲載されました)