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2009年4月1日
無駄を活かそう
コンサルタント
内藤 陽子

昨年末にプライベートで友人と京都を旅行し、その際友人の希望で、私自身も大変久しぶりに銀閣寺を訪れました。 残念ながら、観光のメインである観音殿は改修工事でシートに覆われてしまい、その全景を見ることは適いませんでしたが、それ以外は通常通りに見学することができました。 美しい向月台や銀沙灘を眺めながら展望所へ向かって歩いていくと、散策道の脇に幅60cm、高さ10cmほどの木箱が4個並び、観光客がなにやら熱心に見ています。 私達もつられて覗き込んでみると、内側は3X4の12マスに区切られていて、ポリポットに入った様々な種類の苔がお行儀よく並んでいました。 そして木箱の後ろにはそれぞれ、次のような立て札が立てられていました。 「銀閣寺の大切な苔」 「ちょっと邪魔な苔」 「とっても邪魔な苔」 「大切な苔」の2箱は、まさに名前通りの肌触りだったビロードゴケや、名前だけでもありがたそうなホウライスギゴケといった単体でも目に楽しい苔が並び、計算の上に造成された美しい庭園を構成する要素として相応しいと思われるものばかりです。 一方、「とっても邪魔な苔」は、自宅の庭でもよく見かけるゼニゴケの類が多く、繁殖能力が高いこの苔が生えたら確かに大変だろうなと想像がつきます。 しかし「ちょっと邪魔な苔」とは一体何がちょっとなのか、「とっても」との差が分かるマニアックな観光客は少ないでしょう。 そして、「大切な苔」に名札を立てて紹介するお寺はあっても、「邪魔な苔」をランク付けまでしているのは銀閣寺が初めてでした。 ただ、「とっても邪魔な苔」の文字の下に「Inhabitants of Ginkaku-ji」という紙が貼られていて、なるほど、銀閣寺に在るものとしては認めているようです。 排除すべき苔を「邪魔」と表しながら、「ちょっと」「とっても」という口語を冠して親しみやすくした上で「大切な苔」と並べれば、展示も楽しいものとなり、「大切な苔」をより引き立てることができます。在るものならば、有効活用してしまおうというところでしょうか。 実際のところ、一般的な観光客の関心とカメラの多くは、「大切な苔」以上に「邪魔な苔」の方を向いていました。 庭園内の仄かに紅葉が残る木々や綺麗に咲く椿の根元には、よく手入れされている苔がむしていて、たまにひっそりと残る歓迎されない苔を見つけては「とっても邪魔な苔だね」「ちょっと邪魔な苔かな?」と会話しながら歩いていたのも私達だけではありませんでした。 庭園に生えてくる苔が今後も邪魔であることには変わりないでしょうけれど、あの展示は間違いなく観光客の印象に残るでしょうし、銀閣寺のイメージアップに繋がっていたと思います。 不況のためにギスギスしがちな今の世の中、無駄の排除ばかりが叫ばれていますが、最初から邪魔だと決め付けてすべてを切り捨てるのではなく、少しだけとんちを効かせて活かす方法を考えてみてもいいのではないでしょうか。 銀閣寺の美しい庭園でもゆっくり散策しながら…。