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2019年7月23日
デジタル測定の落とし穴
エグゼクティブエコノミスト
増田 貴司

 情報通信技術の進歩によって、これまで測定できなかった多種多様な情報がデータとして測定できるようになってきた。データの効率的な収集・分析・活用を支える強力なツールとなっているのがIoT(モノのインターネット)と人工知能(AI)である。  これまで人間の経験と勘に頼ってきたアナログの工程や作業をデジタル技術で「見える化」すれば、その良しあしの分析が可能になる。属人的なノウハウがデータ化され意味を持つ知識に変換されれば、企業などが意思決定に活用できるようになる。今やデータが新たな価値を生み出し、産業や社会の変革を主導する時代が到来した。  このようにデジタル化によるモノや環境の測定は、適切に用いれば価値創出につながる。ただ使い方を誤ると、組織が機能不全に陥る恐れがある。特に、次の2点に注意が必要だ。  第1に、測定した動作などの値が報酬や懲罰の基準になると、本来なら課題解決に役立てる「手段」であるはずの測定値が、追求する「目的」にすり替わりやすい。小手先の改善に走ったり、データ改ざんなどの不正の温床になったりする恐れがある。測定値の引き上げに意識が集中するあまり、データでは測れない他の重要な課題への取り組みがおろそかになる弊害もある。  第2に、測定したデータを新たな付加価値につなげる仕組みを作るには、動作などの測定の対象になる人たちが、数値化される価値を理解していることが必要だ。デジタル変革の対象となる現業部門は、別にデジタル化を進めなくても今までのやり方で業務が回っていく。現場の人間とデジタル部門の人間が互いに共感したうえで知を共有して、オープンイノベーションを進め、価値を共創していく環境をつくることが重要だ。 (本稿は、2019年7月23日 日本経済新聞夕刊「十字路」 に掲載されました)