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2015年3月20日
生物から学べることは多い
チーフエコノミスト
増田 貴司

 自然界で厳しい生存競争を勝ち抜いてきた生物には、人知の及ばない、優れた技術がたく さん詰まっている。近年、生物が持つ機能や仕組みを模倣して、新しい技術の開発や性能向 上に結び付ける取り組みが進展している。  いつもピカピカのカタツムリの殻の表面の構造を模倣することから、雨が降れば自動的に 汚れが落ちる外壁タイルが開発された。イワシの群れが仲間との距離を認識して衝突せずに 泳ぐ仕組みを応用して、集団走行するロボットカーを開発した例もある。  人間が生物から学べるのは、こうした技術開発のアイデアだけではない。生物は私たちに 生き残るための戦略をも教えてくれる。  人間は、「弱い者でも、人一倍努力すれば勝てる」と考えがちだが、生物の世界ではそんな 甘い根性論は通用しない。弱い生物は、群れる、隠れる、死んだふりをする、擬態する(身の 回りのものに色や姿を似せる)といった戦略を駆使してはじめて、厳しい自然界で生き抜ける のだ。 また、人間は「今日できることを明日に延ばすな」と、先送りを戒める。しかし、生物の世界で は先送りが基本的な生き残り戦術である。さらに、人間の社会では弱者を支援して自立させ ることが是とされるが、生物の世界では、弱者は強い者に寄生して生き残るのが常套手段だ。 そして、当初は片方が損をする寄生関係であっても、いつの間にか、双方が得をする共生関 係へと発展していく場合が多い。  このように生物に学ぶアプローチから、私たちはイノベーションに不可欠な「常識を打破す る発想」を手に入れることができる。「最も強い者が生き残るのではない。唯一生き残るのは 変化できる者である」という有名な言葉を実践するためにも、人間は生物という最良の教師か ら謙虚に学ぶ必要があろう。 (本稿は、2015 年 3 月 19 日 日本経済新聞夕刊「十字路」に掲載されました)