close

2016年5月9日
「お互いさま」は本当に「お互いさま」?
人材開発部
逆井 克子

私は仕事柄、普段から言葉の意味や微妙なニュアンス、その使い方などに敏感な方ではあるのですが、このところ使われ方がやや気になる言葉があります。それは、「お互いさま」という言葉です。  「お互いさま」という言葉そのものは、「こちらも同じ立場・な(になる)のですから、そんなにおっしゃる必要は有りません、という気持を表わす語」(新明解国語辞典第四版)と辞書で解説されているとおり、困った人に手を差し伸べるときに相手に負い目を感じさせないように言う、気遣いの言葉です。ベースには「思いやり」や「寛容さ」がある、すてきな言葉だと思います。しかし、「お互いさま」という言葉が使えないような状況でも、最近では「お互いさま」ということが言われたりしています。  例えば、子どもの保育園時代のママ友 Aさんから聞いた話です。少し前にAさんの職場にBさんが育休明けで戻ってきて、一緒に仕事を組んでいるらしいのですが、Bさんの仕事ぶりが以前と違って雑になり、ミスややり残しがあっても「すみません」の一言のみ、自分で行うべき他部署との折衝も中途半端なまま帰宅してしまうこともしばしばで、最終的にはAさんがいろいろとフォローすることとなり、そのため残業する日もあるのだそうです。Aさんいわく、「Bさんは復帰後間もなく、早く帰りたいのは分かるけれど、自分の仕事はきちんと責任を持ってやってほしい。『困ったときはお互いさま』だという雰囲気だから、今は私が彼女をフォローしているけれど、育児中なのは彼女も私も同じで、何だか私ばかり仕事の負担が大きい気がする」。  また、先日久しぶりに会った学生時代の後輩Cさんは、時短勤務の同僚Dさんにイライラを感じると言っていました。「時短勤務の人が増えると、その分こちらの仕事が増える。『お互いさま』と言われれば致し方ないことだと分かっている。けれど、忙しい時期に子育て中の同僚が涼しい顔して『お先に失礼します~』と言って帰って行くのを見ると、何だか割り切れない気持ちになる。私が婚活の時間を確保したくてもそんな余裕は認められないのに、Dさんの子育ては手厚い配慮がされている。どちらも同じプライベートな事情なのに」。  「お互いさまの精神で」などの表現をダイバーシティ推進、ワークライフバランス推進、あるいは女性活躍推進の文脈の中で使っている組織は多いと思います。立場や状況を超えてお互いを理解し、思いやる気持ちをもって働くことはとても大事であり、個別の事情への理解を促すために「お互いさま」の概念を用いることは有効だと思います。しかし、ダイバーシティが進むほど、職場にはさまざまな属性やキャリアの人が集まることとなり、本来、「お互いさま」とはお互いが「同じ条件」で初めて使える言葉であることを踏まえると、現場レベルではすでに「お互いさま」という言葉がなじみにくくなってきているのではないかと想像できます。昨年、メディアをにぎわせた「資生堂ショック」にも、根底にはこうした「お互いさま」の限界があったのかもしれません。  翻って、私自身も2人の子どもを持つ身、いつ何時職場の人に何かをお願いすることになるかもしれません。そのときには、「お互いさま」に頼りすぎず、自分の仕事には責任を持って取り組むという当たり前のことを忘れないようにしたいと思います。