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2010年6月10日
「観光立国」への課題と展望
チーフアナリスト
永井 知美

 訪日外国人旅行者への関心が高まっている。2008 年 10 月に発足した観光庁は、ビジット・ ジャパン・キャンペーンの展開等で訪日外国人旅行者数増加を目指しているが、2009 年 10 月、前原国土交通相は「訪日外国人を 2020 年に 2000 万人にする」という観光庁の目標を 4 年前倒しの 2016 年とし、将来は 3000 万人を目指すという方針を示した。  もともと日本では観光は「遊び」のイメージが強く、主要産業として認識されることは なかった。ここへきて訪日外国人旅行への注目度が高まっている背景には、①日本人の旅 行需要は人口減少や高齢化、所得減少や将来不安などで伸び悩みが予想されること、②所 得水準の向上などによりアジア、とりわけ中国人の旅行熱が高まっていること、などがあ る。  観光の経済波及効果と雇用創出力、地域経済活性化効果は大きい。旅行消費は旅行準備 から始まり、交通費、宿泊費、飲食費、土産代と広範に及ぶ。観光庁の試算によれば、ツ ーリズム産業の付加価値は 11.5 兆円(2008 年度)と、電気・ガス・水道(2007 年、10.2 兆円)等より大きい。  訪日外国人旅行者は新興国発展、ビジット・ジャパン・キャンペーン効果などにより、 2008 年まで順調に増加したが、日本はまだ観光中進国レベルである。外国人旅行者受入数 では世界第 28 位であり、フランス、スペインのような観光大国は言うに及ばず、治安に問 題のある南アフリカ共和国にも及ばない(2008 年)。  2009 年の訪日外国人旅行者は不況、円高、新型インフルで前年比 19%減の 679 万人に終 わった。韓国、台湾等訪日観光が盛んな国・地域からの旅行者が軒並み減少する中、唯一 増加して勢いを印象付けたのが中国人旅行者である。  中国は経済力向上、人口規模の大きさ、旺盛な観光意欲から、日本の観光業界にとって 最も有望な市場である。中国人の海外旅行者数は 1997 年の 532 万人から 2008 年には 4584 万人に急増、日本は香港、マカオに次ぐ訪問先となっている(2007 年、中国国家観光局調 べ)。ただ、2009 年に訪日したのは 101 万人であり、日本は隣国でありながら旅行者数のご く一部しか取り込めていない。これは、主に日本への入国規制の厳しさによる。  日本は台湾、香港、韓国に対しては期間限定ビザ無し入国を認めているが、中国には主 に防犯上の観点からビザ取得を義務付けている。中国人向け個人観光ビザは年収 25 万元以 上の富裕層限定で、需要を十分に取り込んでいるとは言い難い。中国人旅行者の将来性、 物品購買欲の旺盛さなどから、外務省等関係省庁はビザの発行対象を 2010 年 7 月に中間層 (年収 3 万~5 万元)まで拡大する意向である。実現すれば、訪日中国人旅行者増加に弾み がつくと見られる。  タイ、マレーシア、インドネシアなど他のアジア諸国でも、経済発展に伴い今後海外旅 行熱の高まりが期待されている。アジア諸国からの観光客は、訪日理由としてショッピン グ、温泉、日本食をあげる人が多い。今後拡大する需要を取り込むには、こうした魅力を アピールする必要がある。さらに、自然景観や歴史的建造物、治安やサービスの良さを売 り込み、受け入れ態勢を整備(観光地や宿泊施設の外国人対応力向上、関連機関のホーム ページ充実、観光案内標識・案内所設置等)することが、「観光立国」実現への一助となる だろう。 (本稿は、財団法人 日本生産性本部「生産性新聞」2010 年 6 月 5 日号に掲載されました)