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2014年1月7日
コトづくりは実は日本の得意分野
チーフエコノミスト
増田 貴司

 新興国企業が台頭し、工業製品が供給過剰になりやすい時代となった今、日本の製造業 に求められているのはコトづくりである。機能や性能といったモノ単体の価値で勝負する のではなく、人間の感性に訴えかけるようなコトの価値がモノに付加された形のモノづく りを目指すべきだ。  これに対し、「日本人は愚直なモノづくりは得意だが、コトをデザインするのは苦手」と いう先入観を持つ人が多い。だがこれは誤解で、実は日本はコトづくりの素養に恵まれた 国民性を持っている。  元来、日本の工業製品には、おもてなしの心を持って、つつましく、繊細かつ丁寧にも のをしつらえる感受性や美意識が宿っている。きめ細かい人とモノの関係性を重視し、感 性に響く価値を生み出すことは、日本の得意科目といえる。  たとえば、日本メーカーの冷蔵庫の省エネ技術は、機器の基本性能としての消費電力の 低減にとどまらない。センサーを活用してユーザーごとの使用状況に合わせて最適な冷却 運転を実現する力が日本の真骨頂である。  さらに、日本人は独自のコンセプトや世界観を構想する力に乏しいというのも俗説に過 ぎない。任天堂は、テレビゲームが家族に嫌われていた時代に、ゲームを通じて家族との コミュニケーションを促進する仕掛けを提供するという見事な構想力を発揮した。  また、ノーベル賞のパロディとして、世界中のさまざまな分野の研究の中から「人々を 笑わせ、考えさせる業績」に対して贈られるイグノーベル賞の常連は日本人で、2013 年ま で 7 年連続で受賞している。日本人が好奇心や遊び心、空想力に富み、情緒豊かな世界観 を作り上げる能力に秀でている証拠である。  これらの強みを自覚し、コトづくりの武器として活用していくことが、今後の日本企業 の成功パターンにつながるのではないだろうか。 (本稿は、2014 年 1 月 7 日 日本経済新聞夕刊「十字路」に掲載されました)