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2012年12月1日
イノベーションの原点は料理にあり?

 たまにではありますが、私は料理をします。といっても、凝ったことをするのではなく、あり合わせの材料で何が作れそうか考えたり、少し変わったことを試すのが好きなのです。  以前、あるテレビ番組の中で、料理上手で知られるタモリが「料理は脳をフルに使うから認知症予防にいい」と言っていたのですが、実際そのような実験結果もあり、あながち誇張でもないようです。  個人的には、料理の過程は研究開発に類似する点が多いと感じます。何を作るかを先に決めて材料をそろえる場合は、食べたいもの優先の「ニーズ主導」で、目標が決まっている「プロジェクト」。カレーやシチュー、鍋料理などは大体このパターンじゃないでしょうか。逆に、何を作るかは決まっていないけれど、材料はいくつかあるという「シーズ主導」の場合、今ある材料で何が作れるか「発想力」が必要になります。家族の好みや栄養バランスとの「マッチング」も必要です。  次に「仮説検証」。食材の下ごしらえの方法、使う調味料の種類と分量、火加減と加熱時間など、過去の経験を踏まえつつ調整します。このときふと、ちょっとした「実験」をしたくなるときがあります。普段と手順を変えてみるとか、この料理にこの食材は使わないけど、使ったらどんな感じになるかな?という具合に。  そんなひらめきというか、突然の思いつきが「セレンディピティ」。最近ブームの「ちょい足し」や「ズボラ飯」もそうでしょう。以前は、プリンに醤油をかけるとウニの味になるとか、キュウリにハチミツをかけるとメロンの味がするとかいわれましたが、最近は醤油ラーメンにバニラアイスを入れるとクリームパスタみたいになるとか、アボカドをご飯に乗せてバター醤油をかけるとおいしいとか…いずれも、そんなこと試してみようと思うこと自体が不可解なものばかり。仮に最初に試した人に聞いたとしても、「ただなんとなく」か「○○に××入れるのに似てると思って」というアナロジー(類推)ぐらいしか説明できないでしょう。少なくとも、考えて思いつくような組み合わせじゃありません。  研究開発の現場でも、ふとしたことが大発見につながるというのはよくあること。2002 年にノーベル化学賞を受賞した島津製作所の田中耕一さんの発見も、そもそもはサンプル調製でミスしてしまい、普段なら捨ててしまうところ、もったいないからとそのまま測定してみたことがきっかけなのは有名な話です。  この「セレンディピティ」という不思議な能力が人間に備わっていなかったら、ここまで食が多様化することも、科学技術が発展することもなかったのではないでしょうか。意図的にこの能力を発揮できるようになれるのかはわかりませんが、たとえどんなにコンピューターが進歩しても、ドラえもんや鉄腕アトムみたいなロボットができたとしても、おそらく人間以外に持ち得ることのできない能力だろうと思います。  最後に全くの余談ですが、あのグロテスクな外見にもかかわらず「ひょっとして食えるかも」と思い立ち、実際に食べてみる勇気のあった「人類で初めてナマコを食べた人」を、私は真剣に尊敬しています。