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2016年7月29日
ズーム・アイ 何でも釘に見えてくる件
部長(人材開発部)
小西 明子

弊社が主催する技術経営(MOT)異業種交流研修の講師の一人が引用する警句です。MOT 研修ではさまざまなツールやフレームを伝授しますが、習ったツールは使いたくなるのが人の常。今の状況や条件を見極めることなく、むやみに自分の持っているツールで分析したり解決したりしようとすると失敗するし、第一押し付けがましくて周囲の人にも嫌われますよ、というわけです。身につまされる警句ですが、最近、身近でこれにぴったり当てはまる事例を耳にしました。  一人息子の独立を機にマンションの改装を決めた友人。大手のリフォーム会社2社に提案を依頼し、最終的には一般的に値段が高いと言われているA社に依頼することに決めました。実際に、金額的にもB社より少し高い見積もりを出したA社を選んだ決め手は、担当者の対応の差だったといいます。  例えば、当初は両社とも全面クローゼットで提案してきた和室の収納の一部を、来客用布団収納のため一部押し入れに変えることはできないか?と相談した時のこと。A社の担当者は全面クローゼットの方が見栄えが良く、コストも安いことなどを一通り説明した上で、一部押し入れプランを出してくれたそうです。一方、最近収納コンサルタントの資格を取ったというB社の担当者は、「布団は圧縮袋を使って収納すれば、クローゼットに収まるし、その方が使い勝手が良いですよ」と主張してなかなか譲らなかったというのです。まさに「収納コンサルタントの知識」がハンマー。「押し入れが欲しい」という友人の要望は、ハンマーでたたきつぶされてしまった格好です。  「布団圧縮袋が合理的なのは分かるけれど、この年になって布団をしまう時にいちいち圧縮なんておっくうなのよね」というのが友人の言。この場面に限らず、B社の担当者とは何かにつけて話がかみ合わず、プランとしてそれほど大きな差はなかったけれども友人夫婦はA社を選び、B社にその結果を伝えました。すると「なぜ値段の高いA社を選んだのか聞かせてほしい」と、結構強引に翌日のアポイントを取り付けてきたというのです。「申し訳ないとは思うし、理由を聞きたい気持ちもわかるけれど、正直、そういうところが嫌なんですって言いたくなったわ」とぼやく友人。  顧客の要望をうのみにすることが良いこととは限らない、という別の警句もあるように、B社の担当者がリフォームや収納のプロとしてアドバイスしたことが間違っているとは言い切れません。ただ、結構長期間にわたるリフォームのプロセスの中で、こちらの要望に寄り添ってくれる担当者と取引することを選んだ友人夫婦の決断は理解できます。  ちなみに冒頭の警句は「欲求の5段解説」で有名な心理学者、アブラハム・マズローによるものだそうです。オリジナルは“If the only tool you have is a hammer, to treat everything as if it were a nail.”つまり「ハンマーしか道具を持っていない人は何もかもを釘であるかのように取り扱う」。B社の担当者が友人のリフォーム案件を勝ち取るために、収納コンサルタントの知識の他に持つべきだった武器は、マズローが研究していたような「人間の心理」についての理解だったのかもしれません。