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2010年2月2日
不毛な二分法
チーフエコノミスト
増田 貴司

 最近、日本経済に関して、二者択一の議論が横行している。「外需依存ではなく内需主導 の経済成長が望ましい」「景気対策は従来の企業支援策から家計支援策に切り替えよ」「成 長戦略は供給面ではなく需要面を重視せよ」といった類の話である。結論を先に言えば、 これらの二分法的な考え方は有害無益である。  内需の掘り起こしはもちろん大切だが、外需を開拓して輸出主導で成長することは悪い ことではない。世界中の国々が外需への依存度を高めることは、グローバル化のプロセス そのものである。  景気対策については、企業から家計への所得移転のルートが目詰まりを起こしている中、 子ども手当などで家計を優遇することは意味があるが、一方で企業を冷遇したのでは景気 はよくならない。企業が成長して初めて経済のパイが拡大し、持続的な雇用が創出され、 家計が潤う。  また、成長戦略で需要面は重要であり、政府が一時的に需要不足を埋めることは可能だ が、これだけでは中長期的な成長は無理である。規制緩和などで供給面の生産性が上昇し て初めて成長力の強化に結びつく。  要は外需と内需、家計と企業、需要側と供給側、いずれも双方とも重要であり、二者択 一の議論は不毛である。  一橋大学大学院の石倉洋子教授は、近著『戦略シフト』で、日本企業は「OR から AND へ」と戦略を転換すべきと提唱している。これまで二律背反のように考えられてきた項目 (たとえば「優れた品質」と「低コスト」)を OR ではなく AND で結び、その両方の要件 を実現させることで企業は新たな価値を創造できるという指摘である。  石倉氏の「OR を AND に転換する」考え方は、企業戦略に対する有益なメッセージだが、 日本の経済政策もこの発想を導入し、不毛な二分法に直ちに終止符を打つべきであろう。 (本稿は、2010 年 2 月 2 日 日本経済新聞夕刊「十字路」に掲載されました)