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2010年10月15日
新興国市場としての中東地域①
チーフアナリスト
永井 知美

 金融危機後、新興国市場への関心が高まっている。だが、中国・インドへの関心の高さ に比べ、中東地域への注目度は低い。日本企業にとって中東諸国は産油国、あるいは政治 的動乱の続く遠い国々であり、市場として見る向きは少ないためである。  だが、中東地域は有望市場になる可能性がある1 。ここでは、所得水準が高く人口規模が 比較的大きいサウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)、人口規模が大きく、今後経済成 長が期待されるエジプト、トルコの 4 ヵ国を分析対象として、中東地域の市場としての特 性と魅力について考えてみたい。  中東地域は人口増加率が高く若年層が多い。イスラム教圏の中東では「子供は多いほう がいい」との考えが根強いうえ、医療水準の向上でかつての多産多死が多産少死となって いるためである。少子高齢化が進展している日本、中国とは対照的に若年層が多く、消費 意欲の高い年齢層の拡大が予想される。  産油国を中心に一定の富裕層が存在し、非産油国でも中間層の増加が見込まれることも プラス要因である。中東と一口に言っても、国により経済状況は大きく異なる。産油国の 1 人あたり名目 GDP は、UAE の 46,857 ドル(2009 年)、サウジアラビア(同 14,809 ドル)と 新興国としてはかなりの高水準だが、トルコ(同 8,723 ドル)、エジプト(同 2,450 ドル) は、人口は 7,000 万人超と多いものの高所得国とは言いがたい。個々の国を見ると市場と しての魅力が乏しい印象もあるが、中東地域は言語・宗教・文化の面で同質性が高く、経 済的な関係強化の動きもあることから、一つの大きな経済圏として捉えることもできる。 文化的に同一性が高いため、一国で確立したビジネスモデルを域内他国へ持ち込むことが 比較的容易であることも魅力の一つである。  また、中東地域は堅調な原油価格(産油国)、経済改革・天然ガス輸出(エジプト)、自 動車・家電産業の発展(トルコ)等により中間層の増加が見込まれている。欧米諸国と違 って植民地支配等の歴史がないため対日感情も良好で、日本製品に対する評価も非常に高 い。  競合状況という点でも、中東地域(トルコを除く)は現地企業との競合がほとんどなく、 国内外メーカーが入り乱れての激しい競争が繰り広げられている中国等の市場に比べ、高 い利益率を享受する可能性がある。中東地域(トルコを除く)には、一部の石油化学メー カー等を除き、日本企業と競合する現地メーカーはほとんど存在しない。自動車・電機と いった分野で日本企業と競合しているのは、地元企業ではなく主に韓国企業である。  金融危機後も消費マインドがさほど低下していないのもプラス材料である。金融機関が 基本的にプリミティブな段階にとどまっていて証券化商品投資に積極的でなかったこと、 原油価格が堅調に推移していること、(産油国に特に言えることだが)公務員が他地域に比 べて相対的に多いことなどによるものである。  このように、中東地域は市場として有望だが、本格展開している日本企業は少ない。競 合の韓国企業は既に中東市場開拓に本腰を入れている。日本企業も将来を見据え、中東市 場展開を本気で考えるべき時期に来ている。 (本稿は、財団法人 日本生産性本部「生産性新聞」2010.10.15 日号に掲載されました) 1本稿は、機械工業経済研究報告書H21-2『新興国市場としての中東地域における日系企業 の現状と展望』の第 4 章第 4 節をベースに、3 回にわたって報告するものである。