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2013年7月31日
分かっていても実行できない
チーフエコノミスト
増田 貴司

 参院選での与党圧勝を受けて、安倍政権の成長戦略の具体化への期待が高まっている。6 月に策定された「日本再興戦略」で導入が見送られた法人税率引き下げや、解雇規制の緩 和、混合診療の解禁、農業生産法人の要件緩和などが、今秋にまとめられる成長戦略第 2 弾に盛り込まれるかどうかが焦点となっている。  もちろん成長戦略の早期実行を期待するが、優れた内容の成長戦略が策定されることば かり重視される風潮は問題だと考える。なぜなら、「やるべきことを分かっていて、やると 宣言すること」と「実行すること」は別物だからである。これは、ダイエットや語学学習 などで私たちが日々思い知らされていることだ。組織レベルでも、改善すべき点を理解し て明文化しているものの、現実の行動につながっていない事例が山ほど存在する。  したがって、成長戦略を評価する際に問われるべきは、あるべき政策が網羅された作文 の完成度ではなく、その実行可能性である。取り組みの継続的な実行を担保する仕組みづ くり、既得権の壁を打ち破る仕掛けや推進体制の整備で進展があるかどうかが最重要ポイ ントといえよう。  実行可能性はともかく、政権が目指す改革メニューを標榜するだけでも前進という考え 方もあるが、これには賛同できない。経済評論家なら、あるべき政策の姿を語るだけでも 許されるが、政治家は目指す政策を実現させるための手順やタイミング、時間軸を考える べきである。  こうした準備もなく、拙速に改革を発表しても、抵抗勢力につぶされるだけだ。また、 どんなに良い政策でも、国民に受け入れられるためには、論理だけでなく心理的要素が重 要だ。反対者を懐柔したり、心理的な抵抗感を解消したりする時間を確保するためであれ ば、改革の表明を先送りするのも一概に悪いこととはいえない。 (本稿は、2013 年 7 月 31 日 日本経済新聞夕刊「十字路」に掲載されました)