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2010年4月1日
やりたいことだけでは勝てない
チーフエコノミスト
増田 貴司

 世界の家電市場で韓国のサムスン電子が快進撃を続ける一方、日本メーカーの存在感が 低下している。サムスンの強さの源泉の一つは、顧客が本当に望んでいる製品を提供する 力にあると思う。日本企業の場合、作り手側のこだわる「いいもの」づくりが優先され、 海外市場の顧客ニーズからずれている場合が多い。これに対してサムスンは「顧客に選ば れる力」を高めて商売で勝つことを何よりも重視している。  バンクーバー五輪のフィギュアスケートでは、浅田真央選手がキム・ヨナ選手に敗れた が、ここにも同じ問題が潜んでいるように思える。前人未踏の難易度の高い演技構成にこ だわった浅田選手と、技術難度は落として審判団に最も高得点をもらえる演技をすること に集中したキム選手の方向性の差が勝敗を分けたように見える。  経済成長の牽引役は先進国から新興国へと交代した。世界の主戦場となった新興国市場 では、日本人が期待するほど品質や機能は重視されず、高価で過剰なスペックの日本製品 が敬遠されがちである。また、新興国企業が製造に参入してきた結果、世界的な供給過剰 状態が発生しやすい環境になった。  このように競争環境が激変したために、日本の製造業は高度な技術力とものづくりの力 だけでは勝てなくなり、事業で勝つための戦略が不可欠になった。  ファーストリテイリングの柳井会長兼社長が雑誌のインタビューで示唆に富む発言をさ れていた。「(結果が出ない会社は、)たぶんやりたいことだけをやってるんじゃないでしょ うか。お客様がほしいと思う選択肢にまず入らないと売れない。自分の好みに入り込むと 売れなくなります」。日本のものづくりも自分がやりたいことだけやっていたのでは生き残 れない時代に突入したことに気づく必要があろう。 (本稿は、2010 年 3 月 31 日 日本経済新聞夕刊「十字路」に掲載されました)