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2013年2月1日
現代版「学問のすすめ」

 社会人がよく手にするビジネス本の先駆けとも言うべき書籍が「天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず」で有名な福澤諭吉の『学問のすすめ』です。同書は往年のベストセラーですが、私は恥ずかしながら40歳を超えるまで手にしたことはなく、「大人が読むべき一冊」として推薦され読んだ次第。読後「もっと若い時に読んでおけばよかった」と後悔すると同時に、明治初期の啓蒙思想家が現代を見越したかのように論じているのに大変驚きました。否、この国は明治初期からほとんど変わっていないのかもしれません。  同書は大学に入学する前後の若者に学問の必要性を説いているというよりも、大人に「学問の真の目的」を説いているといえます。同書は近代国家に向け日本が始動した頃に発行されていることから、日本が世界から「独立国家」として認められるにはどうすべきかが中心に書かれており、福澤は国民一人一人が学問を通して目的意識を明確に持ち「自律/自立」することこそが必要であると主張しています。そして、「自律/自立」には客観的な判断基準を持ち、他者と幅広く議論して知見を深めることが重要であり、そうした個人が増えることにより国が活気づき安定するとしています。つまり、学問は確固たる個人を形成するためにするのですが、自分自身にのみベクトルを向けるのではなく、社会の中の「個」であることを意識し学ぶことが重要だとしているのです。実は、このことは同時期の文豪、夏目漱石も著書『私の個人主義』で言っており、自立した個人の形成が安定した国づくりの基礎であると社会が認識していたといえます。  さて、現代を見ると国も企業も個人もグローバル化の中でどのように自国・自社のプレゼンスを高めていくかを模索しています。この状況は明治初期の日本と似ているのではないでしょうか。であれば、福澤や夏目が主張するとおり、個人は「自律/自立」すべく「学問」をすることが重要だといえます。しかし、厚生労働省の「平成23年度能力開発基本調査」によれば、男性正社員の約5割、女性正社員の約4割が「仕事が忙しくて自己啓発の余裕がない(自己啓発に問題を感じている)」としています。この割合は、1週の就労時間が長いほど高くなり、また、女性正社員の約1/4は育児や家事が忙しくて自己啓発の余裕がないとしています。グローバル化の中で企業や国の価値を高めていくはずの労働者が学問をする時間を確保できないことは、将来のわが国・企業が置かれるであろう状況を示唆しているといえます。  福澤や夏目が生きた明治時代からわが国は産業を発展させ豊かで安定した国をつくり上げました。しかし一方で、多忙な日々の中で個人は学問への気概や目的を失い、目指すべき未来、国の形が見えないままいかに「個」を守るかに終始した日々を送っているように思えます。  総選挙も終わり、2013年は新たな日本の門出でもあります。新しい国づくりに真摯(しんし)に向き合ったかつての思想家の教えに耳を傾け、各自が「学問」を進めてみることから始めてみてはいかがでしょう。