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2018年10月12日
「革新拠点」としての中国
チーフエコノミスト
増田 貴司

 日中経済関係における中国の位置づけが、従来とは一変している。日本企業が一方的に中国に進出するのではなく、世界レべルの技術力を持った中国企業が日本市場に進出してくる例が増えてきた。中国メーカーが日本企業の下請けを脱し、自社ブランド製造企業に変貌した例もある。  もう一つの見逃せない変化は、中国が最先端のイノベーションが生まれる場としての存在感を高めつつある点だ。背景には、インフラが未発達で不便・不満が多く、それを解消したいという動機が強いこと、規制や既存産業のしがらみが少ないことなどから、リープフロッグ(カエル跳び)と呼ばれる現象が起こりやすいことがある。先進国がたどった発展過程を経ずに、一気に革新的な技術や事業モデルが普及する現象だ。  さらに、中国ならではの優位性も指摘できる。知的財産権の保護が不十分な状況がイノベーションを促進している面がある。安価なコピー製品が出回ることによって爆発的な需要拡大が起こる。パクリが横行し、信用できない業者だらけの社会で、どの業者となら安心して取引できるのかが分かりにくい環境だからこそ、深圳などではそれを指南してくれるデザインハウスと呼ばれる企業群が登場するなど、イノベーションを支援する生態系が構築されている。  巨大な市場からビッグデータを迅速に蓄積して、人工知能(AI)を使った分析を進められる。しかも、個人情報保護の観点からビッグデータを集めにくいという制約が欧米に比べて小さい点も中国ならではの強みだ。  言論の自由が抑圧され、知的財産権が守られない国ではイノベーションは生まれないというかつての常識は覆された。イノベーション拠点としての中国の活力を自社の成長にどう取り込んでいくかを企業は検討する必要があろう。 (本稿は、2018年10月12日 日本経済新聞夕刊「十字路」 に掲載されました)