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2012年2月17日
業種の垣根が溶けていく
チーフエコノミスト
増田 貴司

 近年、異業種の企業が市場で競合する例が増えた。こうした異業種間競争をさらに激化 させる構造変化が現在進行している。スマートシティ(環境配慮型都市)、ソフトウエアな どを通信回線を通じて利用するクラウド、スマートフォン(高機能携帯電話、スマホ)の 3 つの要因により、業種や産業の垣根が溶解しつつあるのだ。  1 つ目のスマートシティについては、従来、日本企業は欧米より遅れていたが、東日本大 震災を機に事情が変わった。復興に向け、日本が安全・安心と災害対策を重視したスマー トシティづくりの先進的な舞台になる可能性が出てきた。事業に参画できる業種が幅広い ため、多様な企業がこの分野に乗り出している。  2 つ目のクラウドも、震災を機に事業継続を支える IT(情報技術)として日本でも利用 が増え、供給側にも様々な業種の企業が参入している。クラウドの普及は、ハードやソフ トなどを「自ら所有する」というスタイルを、ネットを介して「必要な時だけ利用する」 スタイルに転換する。これは既存の産業構造を破壊する影響力を持つ。  3 つ目のスマホの普及も、生活やビジネスのあり方を変えつつある。ゲーム機、デジタル カメラ、カーナビゲーションなど、別々の業界で発展してきた製品群がスマホと競合し、 市場縮小の危機に直面している。店頭と通販の価格を比べる消費者が増え、実店舗からネ ット通販への需要のシフトも加速しそうだ。  このように、スマートシティ、クラウド、スマホの発展は業種の垣根を壊し、企業の新 規事業展開を活発にする。同時に、人々の生活や行動の様式を変え、既存の技術や製品を 陳腐化させ、ビジネスの枠組みを一変させる。  もはや従来型の業界区分や同業他社分析は意味をもたない。企業にとって、競争相手が いつどこから現れるか分からない時代になった。 (本稿は、2012 年 2 月 16 日 日本経済新聞夕刊「十字路」に掲載されました)