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2019年4月17日
柔道と「こんまり」の共通点
チーフエコノミスト
増田 貴司

 嘉納治五郎氏が創始した講道館柔道は、今や200以上の国・地域で愛好されるスポーツとなっている。嘉納氏は「日本発(初)の世界標準」の構築者となった。  柔道はなぜ世界に受け入れられたのか。最大の要因は、嘉納氏が他に例のない、新しいシステムを生み出し、それを貫く理念を提唱したことにある。その理念とは「精力善用、自他共栄」。心身を鍛錬するだけでなく、己の心身の力を最も有効に活用し、自己を完成させ、社会に貢献する人材を育成するという精神だ。  嘉納氏の柔道は単なる武道やスポーツではなく、思想そのものだった。柔道を中心とした理想の社会システムを世界に広めたいという壮大な夢を表明した。西洋スポーツにはないこの理念が、万国の人々の共感を集めた。  柔道は、日本の文化や精神性が埋め込まれた独自の事業システムをつくり世界展開に成功した例だ。これと同様の最近の事例として、片づけコンサルタント、近藤麻里恵さん(通称「こんまり」)の活躍をあげられる。  近藤さんは著書『人生がときめく片づけの魔法』の翻訳書が海外でも大好評で、2019年1月には米動画配信サービス「ネットフリックス」で自らホストを務める番組が始まり、人気を集めている。  旋風を巻き起こした理由は、ただの片づけ術ではなく「人生を変えるもの」という理念とスピリチュアルな魅力が共感を呼んだことだ。「捨てる物に敬意を払う」という発想に感動する外国人が多い。物にも心があるととらえ、話しかけるしぐさが「東洋の神秘」と受け止められている。  柔道とこんまりの事例は、日本固有の美意識や感性を埋め込んで、志と理念を明確に掲げた独自のシステムをつくり上げれば、世界で受け入れられる可能性があることを教えてくれる。 (本稿は、2019年4月17日 日本経済新聞夕刊「十字路」 に掲載されました)