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2011年11月9日
技術力だけの差別化は限界
チーフエコノミスト
増田 貴司

 最近、各種メディアで日本の技術力の高さを取り上げた特集が増えている。東日本大震 災から立ち上がる国民を鼓舞するためであろう。日本の部材産業には世界シェアが圧倒的 に高い企業が数多く存在すること、環境・エネルギーなど有望分野の技術開発で日本企業 が世界の先頭を走っていることなどを紹介する企画が花盛りだ。  これらの特集を見て日本の強みを認識し、自信を持つことはもちろん大切だが、副作用 が出る懸念もある。技術の強さに安堵して企業が現状肯定に陥り、忍び寄る危機への対応 が遅れるというわなだ。  忘れてはならないのは、震災前から日本の製造業は危機に直面していたことだ。新興国 市場の存在感が増し、デジタル化が進み、新興国のメーカーとの競争が激しくなるなかで、 日本企業が高度な技術で差別化を図ろうとしても、機能が過剰とみなされ、顧客がそれに 見合った対価を払ってくれない例が増えた。日本企業が先端技術を搭載した新製品を開発 しても短期間で新興国企業の類似の製品が氾濫して価格競争が激しくなり、もうからない 事例も目立つ。  要は、技術力の高さだけを武器にした差別化戦略の限界が見えてきたということだ。日 本企業が生き残るためには、技術力の向上に加え、モノづくりの強みを独自性に結びつけ、 顧客が対価を払ってくれる価値を創出する必要がある。製品単体の質や価格で勝負するの ではなく、サービスやシステムを一体として提供して競争力を高め、長年積み重ねた組織 能力を活用し、簡単にまねのできない強みを築くことに力を注ぐべきだ。  今は市場占有率が高い部材メーカーも、製品の競争優位が予想外に早期に崩れた場合の 対策を講じておく必要があるだろう。マキアヴェッリが言うように、「天国へ行くのに最も 有効な方法は、地獄へ行く道を熟知すること」だからである。 (本稿は、2011 年 11 月 8 日 日本経済新聞夕刊「十字路」に掲載されました)