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2020年6月4日
人に触れたくない、との思い
取締役 エグゼクティブエコノミスト
増田 貴司

 新型コロナウイルスがもたらした変化の一つに、デジタル化の急加速がある。テレワーク、オンライン診療、オンライン授業などが急拡大して、あらゆる分野でデジタル変革が進み始めた。全産業デジタル化という潮流は以前からあったが、それをはばんでいた旧来の制度、慣習を見直す機運がコロナ禍で高まり、一気に流れが速まった。  デジタル化を速めた根本的な原因は、人との接触を避けたいというニーズだ。これまで善だった、人の移動・集合・対面交流が今やリスクとなった。ウイルス感染を恐れ、人々が接触を避けている。こうした思いはコロナ収束後もトラウマのように残り、非接触の選択が「新常態」となる可能性が高い。  非接触のニーズが広まるとリアルの経済活動の活力を奪い、多くの業界に既存事業の縮小という負の影響を及ぼす。一方で人との接触を避ける技術やサービスが、成長領域として立ち上がってくる。すでに物流を自動化するロボット、荷物を仕分けするピッキングロボットなどの受注が伸びている。ロボットはこれまでの省力化や効率化という狙いの他に、人と人との接触を避ける目的が加わりさらなる需要拡大が期待できる。  声で作動するエレベーターやコピー機、ハンズフリーの照明スイッチなど、手でさわらなくてすむ設備や機器の開発が進むだろう。自動車運送業では、運転手の健康管理や飲酒の確認といった点呼をIT(情報技術)化する動きがある。テークアウトの飲食店では、スマートフォンのアプリと連携して開閉するロッカーを使って、従業員と接触せずに商品を受け取れるサービスが生まれた。  人との接触を避ける行動の広がりが、企業に事業モデルの変革を迫り、新技術やサービス、新市場を促している。 (本稿は、2020年6月3日 日本経済新聞夕刊「十字路」 に掲載されました)