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2013年4月4日
「漂流」のすすめ
チーフエコノミスト
増田 貴司

 米国のジャーナリスト、都市研究家のジェイン・ジェイコブズが 1984 年に発表した『発 展する地域、衰退する地域』は、地域経済が自立、発展するための処方箋を描いた先駆的 な名著である。同書は、今の日本の地域活性化を考えるうえで多くの示唆を与えてくれる。 興味深いのは、「漂流の美学」を論じている点だ。  地域経済は「漂流」することによって拡大・発展していく、とジェイコブズは指摘する。 予測不可能な問題の発生が避けられない世の中で発展を続けるには、環境変化に対応して 臨機応変に自己を修正し、前例のないことに挑戦し、漂流することが必要だという。  グローバル化やデジタル技術の進歩により、製品や技術が陳腐化するスピードが速まり、 従来の勝ちパターンが通用しなくなってきた。自治体が誘致した企業の工場が新興国に移 転したり、操業停止に追い込まれたりするケースも多い。経済主体がいい意味で漂流しな がら成長することの重要性は高まっている。  たとえば、地域の産業振興策として、従来は「効率的な生産拠点の整備」を目指すこと が多かったが、今後は「環境変化に柔軟に対応できる産業集積の構築」が重要テーマとな ろう。そのためには、特定の企業や業種に依存せず、地域の特性や資源を組み合わせて独 自の強みを築くこと、多様なネットワークを形成し、業際化や連繋を促進すること、など の方策が考えられる。  持続的発展のために漂流が必要なのは、企業や個人も同様だ。漂流するには、従来のや り方や発想を変えなければならない。「お変わりありませんか」の挨拶に見られるように、 日本には変化を恐れる風潮が確かにある。一方、日本に長寿企業が多数存在するのは、時 代の変化に柔軟に対応して革新を繰り返してきたからである。こうした老舗企業を見習う べきだ。 (本稿は、2013 年 4 月 4 日 日本経済新聞夕刊「十字路」に掲載されました)