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2011年9月30日
切り札になる「リバース・イノベーション」戦略
シニアエコノミスト
福田 佳之

新興国の急成長に対応できず  近年の世界経済の特徴は、新興国をはじめとする途上国の目覚しい成長スピードである。 財政問題等を抱えて回復の遅れが目立つ先進国とは対照的に、新興国の高い成長力が世界 経済のよりどころとして世界の企業や投資家の注目を集めている。  このような新興国の高成長を支えているのは国内の中間層およびそれ以下の所得層の成 長である。例えば、米国ブルッキングス研究所の研究では、一日の生活支出に 10~100 ド ルを費やす中間層は世界的に増大しており、このままいくと、2030 年には中間層の人口は 世界の 6 割以上を占め、なかでもインドや中国での増大が著しいと見ている。  拡大を続ける新興国需要をうまく取り込んで成長することに大半の先進国企業は成功し ているとは言いがたい。実際、フォーチュン誌が発表した「フォーチュングローバル 500」 を見ると、日米企業のランクイン数が数年前と比べて減少している。  先進国企業が世界、特に新興国で苦戦しているのは、先進国企業が採用している海外戦 略、「グローカリゼーション」が関係する。「グローカリゼーション」とは、優れた製品を 先進国内で開発し、その後、地域特性に合わせて一部改良しながら全世界で販売するもの だが、このような製品は余分な高機能が付加されて値段も高いために、新興国の中間層や さらに所得の低い BOP 層(Base of the Pyramid)には手が届かず、また彼らのニーズに 応えることもできていないのだ。 「破壊的イノベーション」を仕掛ける新興国企業  さらに新興国市場の攻略を急ぐ先進国企業に対して挑戦する企業群が存在する。それは 「破壊的イノベーション」を仕掛ける現地の新興国企業である。  彼らは低価格で小サイズ、シンプルな機能、省エネ、環境配慮等の要素を取り込んだ製 品を開発して、新興国の中間層や BOP 層の旺盛な需要に応えている。先進国企業は新興国 企業が生み出す低価格製品の破壊力になすすべもない。  インドの Suzlon 社は、環境にやさしくて火力発電よりも廉価な風力発電に着目し、1995 年に風力発電装置事業に参入した。現在では同社はインド国内だけでなく、世界で有数の メーカーにまで成長している。  中国の Galanz 社は、電子レンジの小型化で中国国内のニーズをつかみ、ついには世界ト ップの電子レンジメーカーにまで駆け上がった。  同じく中国のハイアール社は独身者や農村住民のために省エネの小型洗濯機や芋洗い洗 濯機を開発し、国内外で好評を博している。  サービス産業でも「破壊的イノベーション」事例は存在する。インドで心臓外科専門の Narayana Hrudayalaya 病院はフォード生産方式を病院経営に応用して廉価で高品質の医 療サービスを提供しているが、その利益率は米国の私立病院を上回るほどである。  このような状況で先進国企業は危機感を抱いている。GE 社のイメルト会長はこう断言す る。「GE は、シーメンスやフィリップス、ロールスロイスなど、従来のライバルたちを高 く評価している。とはいえ、・・・彼らには、GE をノックアウトすることはできない。し かし、低価格/高性能のニュー・パラダイムを作り出す製品を上市することによって、新 興国の大企業が GE を打ち破る可能性は十分ある」。  そこで、GE 社などの先進国企業が新興国の高成長を取り込みながら、新興国企業の機先 を制する切り札として取り組んでいるのが「リバース・イノベーション」戦略である。次 の(下)では彼らの「リバース・イノベーション」戦略の具体的な事例を見ていきたい。 ※(下)は 10 月 15 日号で掲載予定 (本稿は、公益財団法人 日本生産性本部「生産性新聞」2011.9.25 日号に掲載されました)