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2014年5月2日
デフレマインド払拭を示す企業行動
チーフエコノミスト
増田 貴司

 このところ日本経済についての市場の関心は、消費税率引き上げが景気に及ぼす悪影響 と、消費者物価の上昇ペースが日銀の想定通りかどうかの見極めに集中している。しかし、 目先の景気・物価動向ばかりを追いかけるのではなく、現在進行中の重要な底流変化に注 目したい。それは企業がデフレマインドの払拭を示唆する行動をとり始めていることだ。  17 年ぶりの消費税率引き上げで値上げの春を迎えたが、実は消費増税前の昨年度下期か ら、多くの製品・サービスで価格が上がっている。単に値段だけ上げるのではなく、商品 の質を高めて値上げをする企業が増えている。また、政府が増税分の円滑な価格転嫁を奨 励している中で、増税分と合わせてこれまでの原材料コストや人件費の上昇分を転嫁する 動きも見られる。  一方で、増税後も価格据え置きまたは値下げに踏み切り、低価格路線を続ける企業もあ る。このように、企業の価格戦略にバラツキが出てきたのは大きな変化だ。企業がそろっ て値上げを避け、コスト削減と我慢で乗り切る時代が約 20 年続いてきたが、それが今変わ りつつある。価格転嫁がしやすい環境が生まれ、企業が多様な価格戦略に挑戦するように なり、価値あるものを高く売るための取り組みが活発になってきたのだ。  こうした中、これまで値下げしかしたことのなかった若手・中堅社員が初めて値上げ業 務を経験するといった事例が相次いでいる。同時に、今春は 21 世紀に入ってほとんど死語 になっていたベースアップ(ベア)が多くの企業で復活し、ベアを伴う賃上げを久しぶり に(初めて)経験する労働者も増えている。  こうしたデフレマインド払拭を示す企業行動が持続的、不可逆的なものかどうかが、デ フレ脱却の成否の鍵となろう。 (本稿は、2014 年 5 月 2 日 日本経済新聞夕刊「十字路」に掲載されました)