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2021年7月26日
【世界経済評論IMPACTコラム原稿】
米国シェールオイル増産の行方と脱炭素化の流れ
部長(産業経済調査部)
 チーフエコノミスト
福田 佳之

シェールオイルの生産が足踏み  これまでの1年間の米国シェールオイルの生産変動が著しい。2020年春の新型コロナウイルスの感染拡大と21年2月の米国南部での大寒波襲来で、シェールオイルの生産は一時、激減した。米国エネルギー情報局(EIA)のDrilling Productivity Reportによると、20年3月に日量916万バレル生産していたシェールオイルは、5月には同677万バレルまで急落した。その後回復したものの、21年2月には同659万バレルまで再び落ちた。  注目はその後のシェールオイルの生産動向である。原油価格(WTI)は、2020年11月以降、じりじりと上昇を続け、21年6月には1バレル70ドル台に突入した。直近においてOPECプラス産油国の段階的な減産解消の合意で低下したが、依然として油価は高水準である。シェールオイルは油価反応性が高く、油価が上昇するとまもなく生産が増えることで有名である。にもかかわらず、6月のシェールオイルの生産は日量784万バレルと800万バレルを前にして足踏みを続けている。EIAが最近公表した「短期エネルギー見通し」21年7月版によると、22年末でも米国の原油生産はコロナ前の生産水準まで到達しないとみている。 シェールオイル開発の損益分岐点が上昇  油価の上昇に敏感なシェールオイルの生産が伸び悩む理由は何だろうか。確かにシェールオイルの開発事業の損益分岐点は上昇している。カンザスシティ連銀の2021年4月の事業者アンケートによると、1バレル53ドルと昨年に比べて6ドル上昇した。さらに今後について損益分岐点は緩やかに上昇を続け、5年後には同70ドルに達するとしている。1バレル150ドルと回答しているシェールオイル開発事業者もいたようだ。  だが、スイートスポットと呼ばれる高生産油井が枯渇してきているわけではない。筆者の試算では生産性の改善そのものは2018年以降現在に至るまで続いており、例えば水平坑井の延長距離も伸び続けている。事業者は生産性以外の別の要因がコストアップとして加わるとみているようだ。 世界的な脱炭素化の動きに要注意  気になることは、2020年後半以降、事業者はキャッシュフローの確保を優先させており、掘削からの本格的な開発投資は後回しにしていることだ。実際、シェール油井の在庫と呼ばれているDUC井(掘削済みだが、原油未回収の油井)の増減を見ると、20年7月以来、21年5月まで長期にわたって減少を続けている。事業者は開発投資を減らしたものの、いわば在庫を減らすことでなんとか原油供給の維持に努めてきたといえる。  事業者が開発投資を抑えているのは資金を融通している投資家の存在がある。彼らは事業者に対して温室効果ガス排出削減努力を要請している。2021年に登場したバイデン政権は気候変動対策に本腰を入れることとなり、それを受けて金融機関などの投資家はシェールなどの化石燃料資源の開発に対して忌避的な態度をとるようになっている。シェールオイルの開発事業者も温室効果ガス排出削減に向けた努力がコストアップにつながるため、シェールオイル事業の損益分岐点が上昇していくとみているのではないか。  こうした米国での官民の本格的な脱炭素化に向けてのスタンスが来年の中間選挙や2024年の大統領選挙の結果で覆るのではないかと期待している関係者がいるかもしれない。しかし、現実はそんな期待を許さないほど脱炭素化に向けての動きが強まっており、それはこうした流れに距離をとってきた米国においても例外ではない。実際、米国石油メジャーのエクソンモービルも気候変動対策を重視するアクティビストからの要求に基づきボードメンバーを3名受け入れた。日本政府や企業も今般の世界的な脱炭素化の動きに注意すべきだろう。 (本稿は、国際貿易投資研究所(ITI)7月26日付「世界経済評論IMPACT」に掲載されました)