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2017年8月24日
IT・AI 化と日本製造業の強み
チーフエコノミスト
増田 貴司

製造業にデジタル技術が浸透すると、標準化した部品の組み合わせで製品を設計するモ ジュール生産が進展する。こうなると日本企業が得意とする現場での精緻な調整能力、いわ ゆる「すり合わせ能力」が不要になると思われがちだ。だが、複雑な構造の製品をうまくモジュ ール化するには、高度なすり合わせが不可欠である。  製品の構成要素をどう分けて、どうつなぐかを決めるには、社内外を含めた部門をまたぐ 調整が必須だからだ。  第4次産業革命の到来で需要が伸びるモジュール品は、複数の部品を組み合わせる。そ れだけに、開発にはすり合わせが欠かせない。この分野では村田製作所やアルプス電気な どが健闘している。  また、自動運転や医療・介護といった人命にかかわる分野や、鉄道車両やエレベーターな ど重量の大きなものを制御する領域では、デジタル化を進める上でアナログ的なすり合わせ 能力が優劣を決するポイントとなる。  一方、人工知能(AI)を巡っても誤解がある。製造業でAIの活用が進めば、現場力に秀で た日本のものづくりの強みが失われると心配する見方がある。これも正しくない。  AIを導入すれば熟練職人の技はAIに代替される。ただ、いくらAIの利用を進めても、人間 と機械の伝達を担う部分など、すり合わせが必要な部分は別の領域で残り続ける。AIの活用 で職人不足や技能継承の難しさなどの問題を解決できるほか、より効率的な手法の開発や 顧客ニーズの変化に対応した新たな価値の創出につなげることもできる。  このように、情報技術(IT)やAIは日本の製造業の強みを無力化するどころか、さらなる強 みに転化させる道具になりうる。日本企業はこれまで培ってきた現場力やすり合わせ能力と いう資産を生かした、攻めのデジタル化やAIの活用を進めるべきだ。 (本稿は、2017 年 8 月 23 日 日本経済新聞夕刊「十字路」 に掲載されました)