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2011年9月1日
経営センサー9月号 2011 No.135

■特集 震災後の日本の製造業 革新への見取り図

東日本大震災後のものづくりの課題 -企業はどこに活路を見いだすか-

増田 貴司 産業経済調査部長 チーフ・エコノミスト

【要点(Point)】
(1)サプライチェーンの復旧が予想を上回る速度で進んだため、日本の景気は3月を大底にV字回復軌道をたどっている。しかし、震災後の日本のビジネス環境悪化を受けて産業空洞化の進展が懸念されるため、2012年以降の景気は浮揚力の乏しい展開が予想される。
(2)被災した企業が早期の生産再開を果たした背景には、強い現場力があった。震災以降、日本企業は様々なサプライチェーン強化策に取り組んでいる。
(3)日本のグローバルニッチトップ企業が、地震列島・日本で生き残るための鍵は、被災時の復元力(レジリエンシー)強化である。
(4)震災以降、日本企業の新興国展開が一段と活発化している。①新興国市場開拓を狙ったM&Aの増加、②素材メーカーの海外生産の活発化、③R&D拠点の新興国シフトの増加、④ASEANや韓国を輸出生産拠点として活用する動き、といった4つのトレンドに注目したい。
(5)震災後の日本企業の進路はグローバル化の加速である。活発にグローバル展開をしている企業の方が、むしろ国内雇用を増やしている場合が多い。
(6)多くの企業が節電、省エネ、創エネ、蓄エネ関連分野に商機を見いだし、新事業の強化に乗り出している。震災後の電力不足は、日本がお家芸ともいえる省エネ分野の強みに磨きをかけ、世界に冠たる節電大国として成長するチャンスである。
(7)3.11以降の状況急変の中で、多くの日本企業がかねてから課題と認識していながら先送りしてきた経営革新や成長戦略に、覚悟を決めて取り組み始めた。
(8)戦後最大の苦境だというのに、政治の混迷と無策が続く日本の現状は、国民経済の存続の危機だ。しかし、政治への絶望感が企業の自律的な経営革新を加速している側面に注目したい。ここにこそ日本経済復興への原動力が宿っている。

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東日本大震災以降、変容する日本の貿易構造 -産業空洞化の進行は2012 年度に11 兆円の貿易収支悪化と122 万人の雇用喪失へ-

福田 佳之 産業経済調査部 シニアエコノミスト

【要点(Point)】
(1)東日本大震災後の日本の貿易収支は、サプライチェーンの寸断と代替輸入のために、悪化している。4月は▲4,677 億円と31年ぶりの貿易赤字に転落した。
(2)今後の貿易収支は世界経済の減速やIT 関連財の生産調整、復興や発電のための資材・燃料の輸入増、原油高、円高もあって黒字を元の水準まで回復させることは当面難しい。しかし、所得収支が大きく出超しているために経常収支段階では黒字を維持できる。
(3)日本企業はリーマンショック以降、新興国内需を取り込むために海外に事業拠点をシフトしているが、大震災後もその流れは加速している。このままでは国内の生産や雇用が低下する産業空洞化が進行しよう。
(4)産業空洞化が進行した場合、その経済的影響を2008 年度を基準にしてシミュレーションすると、来年度の貿易収支を最大▲11兆円(GDP比▲2.3%)押し下げ、雇用も関連投資の減少分をわせると最大122万人減少する。
(5)国際分業の進展による日本企業の海外事業展開は容認しなければならない。ただし、最近の産業空洞化は企業に対する抑圧的な政府のスタンスに起因する部分もある。東日本の復興を果たすためにも、政府は企業に対する抑圧的な姿勢を改めてこれ以上の空洞化を防ぐと同時に輸出振興を行うことが重要である。

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サプライチェーンは急速に復旧、インフラ需要拡大で重電分野が好調 -電機業界はどこに活路を見いだすか-

永井 知美 産業経済調査部 シニアアナリスト

【要点(Point)】
(1)日本の大手電機メーカーは、バブル崩壊以降、新興国メーカーの台頭、アナログからデジタルへの転換による後発メーカーとの技術差縮小、投資判断の遅れ等により、半導体、テレビ、液晶パネルといった主要分野で新興国メーカーに次々にシェアを奪われ、世界市場におけるプレゼンスを低下させていった。
(2)電機業界は、東日本大震災で生産拠点の被災、サプライチェーンの寸断等大きな打撃を受けたが、被災事業所、サプライチェーンは予想を上回るスピードで復旧している。
(3)震災で大きな被害を受けたにもかかわらず、大手電機メーカーの2012年3月期連結業績は、8社合計でみると回復基調をたどる見通しである。家電メーカーは、主要製品の価格下落で苦戦が予想されるものの、総合電機メーカーは得意とするインフラ分野の需要拡大で業績堅調が見込まれる。
(4)インフラ分野の競合は主に欧米企業であり、新興国企業の参入は少ない。日本メーカーは技術力、ノウハウの蓄積で新興国企業に比べ一日の長がある。本稿では、インフラ分野の事例として日立製作所の情報・通信システム事業を取り上げてみた。

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■経済・産業

自立目前の太陽光発電

東京大学 総長室アドバイザー 村沢 義久

【要点(Point)】
(1)自然エネルギーは地産地消型と呼ばれるが、ソーラーハウスはさらに一歩進んだ、「自産自消」型エネルギーを提供する。
(2)「太陽光発電は高コスト」は急速に過去の話になりつつある。大量一括購入により導入コストの3割削減が可能であり、近い将来には一般家庭の購入価格であるkWh当たり24円も実現される。
(3)家庭用バッテリーあるいは電気自動車を活用することにより家庭や地域レベルでの電力自給自足が実現する。

■視点・論点

企業経営と文化の効用(第6回) -ゆとりある《空間・時間・心》の再認識-

谷川ヒューマン・テクノ研究所 代表 谷川 孝博

かつて「すき間」が都会のところどころにあった。例えば、路地や神社の境内といった都市の「すき間」は、老人や子供たちの格好のたまり場であり、木陰での「対話」の場であった。子供たちがそこに行けば近所のさまざまな年齢の友だちと出会うことができた。老人と子供にしても、まるで血のつながった家族のように心を通わし伝え合うことができた。

■アジア・新興国

中国 研究者シリーズ(第1回) 33年前の「日流」時代の舞台裏 -日本映画とTVドラマの翻訳者に関して-

国際日本文化研究センター 准教授 郭 南燕

【要点(Point)】
(1)1978年から1983年までは、中国では日本映画とTVドラマが流行した。億単位の観衆が日本の映像に酔いしれた。
(2)日本の映像文化が中国社会に与えた影響は空前で、数多くの日本理解者を育てた。
(3)当時の映画とTVドラマの脚本は主に、台湾出身の数人によって翻訳された。その一人が日本研究者の郭炤烈氏だ。
(4)日本の植民地統治の遺産を背負った台湾人たちは、日本語と日本文化の知識を生かし、日中交流に貢献した。

 

中国におけるPE課税の実態 -中国外貨管理との関連及びその枠組みと対応について-

望月コンサルティング(上海)有限公司 パートナー 公認会計士 望月 一央

【要点(Point)】
(1)中国におけるPE課税1については誤解して語られることが多いが、その徴収額自体大きなものではないといえる。
(2)中国においてはその外国資本管理制度を背景として、役務提供型のPE課税が主に問題となる。
(3)出向者給与負担PE課税の発生の仕組みは中国外貨管理制度と税務管理が密接に関連していることをその基礎とする。
(4)中国における課税実務においてはPE課税よりもロイヤリティとしての課税が志向されるものとなっている。

■ワーク・ライフ・バランス

ドイツの事例を通じて ワーク・ライフ・バランス(WLB)を考える

竹田 敬亮 ダイバーシティ&ワークライフバランス推進部 リサーチアシスタント

【要点(Point)】
(1)ドイツ人は日本人と比べてよりメリハリある働き方をしており、生産性が高い。つまり生活時間を重視し、ワーク・ライフ・バランスを図っている。
(2)ドイツ企業も、家庭(家族)の制約を抱える従業員を支援するための「ファミリーフレンドリー施策」を積極的に展開しつつある。
(3)そこで本稿ではドイツのファミリーフレンドリー先進企業、KOMSA の事例をとりあげて考察する。
(4)個人が効率的に働くよう努力する一方で、企業も従業員の家庭事情に配慮した「働き方の選択肢」を用意しておくことが重要である。

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■人材

人材育成の視点 企業の未来をつくる「組織風土変革」

株式会社スコラ・コンサルト プロセスデザイナー 塩見 康史

【要点(Point)】
(1)経営戦略・方針を実現するためには「組織風土変革」が必要。「戦略の失敗」「制度の失敗」「イノベーションの失敗」の背景には組織風土の問題がある。
(2)組織風土変革の進め方には定石がある。定石を踏まえて自社独自の変革シナリオを描いて活動を進めていく。
(3)企業の変革をリードするのは、これまでの職位や役割にとらわれずに、自由に発想し、行動できる「変革リーダー」である。

■経済用語解説

ちょっと教えて!現代のキーワード 

「海水淡水化」「ソーシャルメディア」

■お薦め名著

『デザインの小さな哲学』 -時代のキーワードとしてのデザイン-

ヴィレム・フルッサー 著 瀧本 雅志 訳

■ズーム・アイ

「団塊の世代」その華麗なる老後

馬田 芳直 調査研究部門 理事

間もなく、2012年問題がやってきます。団塊の世代の60歳定年退職から、当初は2007年問題と言われましたが、政府からの雇用延長の指導の結果、5年間問題が先送りにされたものです。

■今月のピックアップちゃーと

貿易環境の改善に動く新興国 ~ 大半の新興国で関税率引き下げと税関の効率化を促進 ~