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2021年10月22日
【論点シリーズ】No.21-09
日本の実質賃金低迷を考える
- 労働生産性上昇の実現には設備投資復活が不可欠 -
部長(産業経済調査部)
 チーフエコノミスト
福田 佳之

・OECD統計によると、日本の実質賃金が諸外国と比べて低迷している。OECD35カ国平均では、過去20年間、とりわけ2010年代で7,000ドル伸びて5万ドル近い水準まで達しているのに対して日本は3万7,000~3万9,000ドルと伸びなかった。 ・同期間において日本のように実質賃金が低迷したのはメキシコや南欧諸国ぐらいであり、伸びない方が珍しかった。日本の実質賃金の低迷には日本固有の問題が関係している。 ・日本の賃金低迷に関して、これまで有識者の間でも議論されている。実質賃金の推移について、確かに雇用者数でみると長期にわたって低下しているが、時給ベースでは低下幅は縮小し、最近では上昇する兆しもある。また、実質賃金の伸び率について要因を分解すると、労働生産性の上昇率の低下によるところが大きい。 ・日本の実質賃金の低迷は賃金そのものの低下よりも、安価な非正規雇用などへのシフトが影響している。日本企業は非正規化などを進めて労働コスト削減を図ってきたが、その背景には国際的な競争激化とデジタル化・DXの遅れで売り上げ拡大による利益確保が困難との経営判断がある。 ・さらに重要なことは、この20年間の間、日本企業の国内での設備投資意欲は低く、十分な資本蓄積が行われなかったことである。このため、労働生産性が伸び悩んだ。設備投資意欲の減退には、低い成長率見通し、海外企業の消極的な日本市場進出、海外事業の「地産地消」姿勢、そして日本企業の横並び発想も関係する。また、日本企業はリスク許容度が低いため、新たな投資に打って出にくいとの見方もある。 ・日本が賃金低迷から脱するには、設備投資の復活が不可欠であり、その萌芽はすでにみられる。なお設備投資復活を促進するためにも、日本企業のリスク許容度を低めるような規制を回避しなければならない。設備投資復活こそ賃金上昇を実現する処方箋であることを岸田政権と政策担当者は今一度肝に銘じるべきだろう。

【キーワード】

実質賃金、人手不足、労働生産性、労働分配率、物価比率、非正規雇用、デジタル化、DX、地産地消、横並び発想、メンバーシップ型雇用、設備投資の復活、グリーン投資、経済安全保障、アニマルスピリット、最低賃金引上げ、リスク許容度 、成長と分配の好循環、新しい資本主義

PDF : TBR産業経済の論点 No.21-09(713KB)