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2007年3月1日
悪魔のささやき・天使の微笑み

 私は何度か悪魔にささやかれたことがある。  私は大学で電子工学を勉強した。将来、研究者になって、新しい製品を作れるようなエンジニアになりたいと思い、磁石や金属の性質について研究する研究室に3年半所属した。とても厳しい研究室であったため、遊ぶことも少なく、夜中まで実験装置に囲まれ研究をする毎日であったが、とても充実していた。とある夜、研究室で実験していると「磁石がどのような性質になろうが、これからのあなたの人生にどう関係するの」と、人生1回目の悪魔のささやきがおとずれた。この日をきっかけに、とにかく電子工学から逃げたくなった。就職活動のときに指導教授が勧めてきた電気メーカーへの就職も断った。  特になりたい職業もなかったし、やりたいこともなかった。というより、世の中にどのような仕事があるのかよくわからなかった。学生向けの分厚い就職情報誌には数百の企業が紹介されていたが、自分に合いそうな会社が一つも見付からなかった。  1年近く就職活動をして、ベビーシッターを派遣する小さな企業に採用された。電子工学を勉強して、なんでベビーシッターをやるのか両親は嘆いた。子供が好きだから、子供相手の仕事につけば楽しいだろうと単純に考えた。実際、幼児とキャンプに行ったり、保育室で工作や体操をしたりとても楽しかった。学生のときは実験装置が相手であったため、子供はとてもかわいく、新鮮でやりがいがあった。なにより、働く母親をサポートできる仕事にとても誇りを感じていた。入社して2年が経とうとしていたころ、夜仕事をしていると、人生2回目の悪魔のささやきがおとずれた。「働く母親をサポートするなら、もっと、いろんな人が働きやすい環境をつくらなくてはだめだよ」と。結局、子供が好きで入社した会社を、たった2年で辞めてしまい、また両親は嘆いた。  働く人がより生き生きと働ける環境づくりを実現したく、経営コンサルタント会社に転職した。それ以降、私はコンサルティングの仕事を現職場と合わせて8年間続けている。なかなか、生き生きと働ける環境をつくる仕事には直接携われていないが、今もその想いは心に留めている。そして、近い将来必ず、より人が生き生きと働ける会社づくりの支援がしたい。  振り返ってみると、電子工学もベビーシッターでの経験も今の私を支えている。今までの経験がなければ今の自分はないと思うし、無駄なことは一つもなかったと感じている。  はたして今後、人生3 回目の悪魔のささやきはおとずれるのであろうか。今思えば、悪魔のささやきは、私にとって、自分らしい職業を見つけるための天使の微笑みだったのかもしれない。