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2013年2月5日
即効性ない政策こそ重要
チーフエコノミスト
増田 貴司

 安倍政権が発足し、大胆な金融緩和、機動的な財政出動、成長戦略を「3本の矢」と位 置付ける経済政策を掲げた。金融緩和強化への期待から、市場では昨年暮れ以降、円相場 は下落し株式相場は上昇している。財政政策では、1 月に総事業規模 20 兆円強の緊急経済 対策が発表された。期待先行の面はあるにせよ、新政権のスピード感あふれる政策発動が 人々のマインドを好転させ、景気に好影響を与えていることは間違いない。  とはいえ、政策の真価が問われるのはこれからだ。今後の経済政策運営で警戒を要する のは、脱デフレと経済再生に向けて気合が入るあまり、即効性のある景気刺激策が過剰に 講じられるリスクだ。  すでに国内の景気は底入れしつつあるほか、2013 年度には 2 つの政策要因が景気を押し 上げる。1 つは消費税率引き上げ前の駆け込み需要、もう 1 つは緊急経済対策の効果だ。両 要因で 13 年度の実質成長率は 1.2%ポイント押し上げられる見通しだ。  この上さらに、公共投資による需要追加や、エコポイント制度のような将来の需要先食 い策を行えば、大きな副作用を招く。14 年度には反動減で産業がかえって疲弊してしまう。  今、必要な経済政策は即効性のある景気対策ではない。10 年先を見据えて日本の潜在成 長率の引き上げを図る政策だ。これこそが 3 本目の矢である成長戦略として打たれるべき 政策で、これなしには日本経済の持続的成長もデフレ脱却も実現しない。  規制緩和により民間の力を最大限に引き出し、産業を活性化させること。自由貿易協定 (FTA)を推進し、成長するアジア市場を取り込むこと。次世代産業を担う人材を輩出す る仕組みをつくること。すぐに成果の出ないこれらの政策に着手できるかどうかが、アベ ノミクスの名が歴史に残るか否かの試金石となろう。 (本稿は、2013 年 2 月 5 日 日本経済新聞夕刊「十字路」に掲載されました)