close

2018年3月7日
モビリティー革命と自動車産業
チーフエコノミスト
増田 貴司

 自動車産業にモビリティー(移動手段)革命と言うべき変革の波が押し寄せている。世界で はカーシェアやライドシェアなどの新たな移動ビジネスが急成長してきた。今後、インターネッ トでつながった車や自動運転が普及してくれば、「車は所有せず、移動サービスを買う」といっ た利用形態が一般的になり、モビリティー市場が一段と拡大することは必至だ。   自動車メーカーも一斉にモビリティーサービスを手がけ始めた。自社の事業を「車の製造・ 販売」ではなく「快適に移動できるサービスの提供」と定義し直す自動車メーカーが増えてい る。この動きはマイカー市場縮小による減収を、車による移動サービス事業で補うための取り 組みと捉えることができる。だが、それだけではない。モビリティー革命の進展は自動車産業 の仕組みや構造を一変させる。   第1に自動車は消費財ではなく、移動という価値を生む生産財、いわばエレベーターのよう な存在になる。利用者は「トヨタの車に乗る」と言うが、「日立のエレベーターに乗る」とは通常 言わない。車も将来、後者の性格の財になるだろう。   第2に快適な移動手段は車に限らないから、自動車移動の競争相手が革新的な公共交通 システムあるいは「空飛ぶ車」になってもおかしくない。自動車会社がその新規分野に参入す る可能性もある。  第3に魅力的な移動サービスを開発して、そのサービスがなかった時は移動しなかった人 たちが移動するようになれば、新たな需要を創り出すことができる。「こんな便利な移動手段 が、なぜ今までなかったのか」「この移動手段を使って何々に参加すれば、こんなに充足感が 得られる」とエンドユーザーが飛びつくような商品を具現化できた企業が、モビリティー時代の 勝者になるだろう。 (本稿は、2018年3月7日 日本経済新聞夕刊「十字路」 に掲載されました)