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2011年3月8日
日本で誤解されている言葉
チーフエコノミスト
増田 貴司

 新興国メーカーが強力なライバルに育ち、安価な製品が洪水のように押し寄せてくる時 代。日本企業が価格競争に巻き込まれず事業で勝つためには、ビジネスモデルを考え抜く ことが大事である。  ところが、日本ではビジネスモデルを IT(情報技術)企業の専売特許のように考え、地 道なものづくりをしている自社には縁遠いものと捉える人が多い。本来のビジネスモデル とは、「つくり、売り、もうける」ための仕組みや仕掛けであり、どの企業にとっても必要 なものである。  デザインという言葉も、本来とは違った、矮小(わいしょう)化された意味で用いられ ている。日本では色や姿、形といった装飾や造形のように思われているが、本来のデザイ ンは「意図や想いを具現化して伝える」ことで、ものづくり全体の枠づくりに直結する言 葉だ。  こうした言葉による誤解が、日本企業の競争力向上を阻害する一因になっている可能性 がある。しかし、言葉の意味の理解が世界標準と違うから直しなさいと注意されても、そ れが人々の腹にストンと落ちない限り、実際の行動には結びつかない。  だとすれば、本来の意味で定着しない用語を、日本人が共感を覚える別の言葉に意訳し て流布させるのも一法だろう。技術経営の教科書は「価値の利益化」が重要と教えるが、 この言葉の語感は金もうけを連想させ日本人にはやや抵抗感がある。そこで、一橋大学教 授の延岡健太郎氏は、これを「価値づくり」と意訳し、本来の意味が伝わりやすい用語で 教えていると伺った。  「企業と労働者のマッチング支援」を「人と企業の縁を考える」という言葉に換え、自 社の行動規範に位置づけている求人情報サービス会社の例もある。こうした試みは、日本 的なナイーブさを逆手にとって、他社とは異なる強みに再構築する手法として参考になる だろう。 (本稿は、2011 年 3 月 3 日 日本経済新聞夕刊「十字路」に掲載されました)