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2014年9月1日
「想像」する力
人材開発部
逆井 克子

 毎年、強い日差しと夏の空気感が漂うようになると、急に山が恋しくなります。山で感じる陽の光と風のにおい、登山靴の心地よい重み、歩みの先にある雄大な景色、手が届きそうな満天の星、下りてきたときの充実感…等々。子どもがまだ小さいため、最近はもっぱら近場をハイキングするくらいですが、山に行くことは私にとって、とっておきの時間であり、貴重なリフレッシュの方法です。  ところで、皆さんは「14サミッター」という言葉をご存じですか。地球上には8,000メートルを超える山が14座あり、これらすべてに登頂した登山家をこう呼びます。日本では、2012年5月に、プロ登山家・竹内洋岳さんが初めて14サミッターとなりました。  竹内さんは、著書『標高8000メートルを生き抜く登山の哲学』(NHK 出版)の中で、登山家、14サミッターならではの「哲学」をさまざまなエピソードを交えて述べています。 ■どれだけ多くを「想像」できるか  8,000メートル峰登頂に必要なのは、人並み外れた体力や技術ではなく、「いかに人より多く想像できるか」。自分の足で頂上まで行き、自分の足で下りてくる、ただそのために、登山家はひたすら想像を巡らせるのだそうです。無事な登頂とともに、失敗する(死んでしまう)想像もする。そうして初めて失敗を回避する手段も想像できるといいます。例えば、クレバス(裂け目)は高所の至る所にありますが、仮に見えなくてもどこにあるかは地形や気温などの条件から想像できる。だから、その場所を迂回したり、事前に落下防止策を講じたりする。つまり、「登山は危険が見えるがゆえに安全を追求できるスポーツ」であり、「想像力の競争」が登山の醍醐味だと語っています。 ■経験は積み重ねず、並べるもの  「経験を積み重ねるほど登山は危険になる」。何が起こるか分からない山に、最初から10の経験を持ち込んだら、その10の部分には想像の入る余地がなくなってしまいます。経験は積み重ねるのではなく、知識として横に並べ、眺めながら位置を移動させたり順番を入れ替えたりして、その隙間を「想像」で埋めていく。この繰り返しが「登山」なのだと言います。  私にとってはリフレッシュの登山も、プロフェッショナルから見ると違った視点があり、非常に考えさせられます。仕事でもプライベートでも、「考えられるリスクに備え、さまざまな想定をし、経験をもとに物事を判断し、効率よく実行する」ことは、皆さん誰でも日常的にやっていることでしょう。ですが、実際どうでしょうか?想定できなかったことを「想定外」と片付けていないでしょうか?想像力を働かせ、事前にできる準備は100%しているでしょうか?経験に頼りすぎて、凝り固まった考えをしていないでしょうか?  私自身、実践できているかと言えば、甚はなはだ心もとないのですが、ひとまずこの紅葉シーズン、「想像」する力を意識しつつ、山に登ってみたいと思っています。