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2010年5月26日
景気回復に安堵することなかれ
チーフエコノミスト
増田 貴司

 国際通貨基金(IMF)の最新の世界経済予測では、2010 年の世界全体の経済成長率は 4.2%になる見通しだ。これは 1980 年以降の平均成長率である 3.4%を上回る高い数字だ。 外需拡大を受け、日本経済も 1~3 月期は瞬間風速(前期比年率)で 5%近い成長となった。  今回の景気回復は、02 年初から 6 年近く続いた前回の景気回復局面と似ているとの指摘 がある。確かに、はじめに輸出頼みの業績改善が続き、それが徐々に設備投資の増加や賃 金の上昇につながるという回復類型は前回と同じになりそうだ。しかし、今回もいつもの 輸出主導の回復パターンだと認識して安心するのは危険だと考える。  世界全体の景気が予想外のペースで回復したために、忘れかけている人も多いが、金融 危機後、世界の経済構造はニューノーマル(新たな常態)に移行しているという現実を直 視すべきだ。環境が一変しているのに、今回もいつもと同じ輸出主導の景気回復だと認識 すれば、日本企業の従来路線の手法や戦略が今後も通用すると錯覚する恐れがある。  先進国がバブル崩壊の後遺症や人口減少で低成長にあえぐ一方、中国やインドなどの新 興国は高成長を続け、存在感を高める。この結果、かつて主要市場だった先進国はマイナ ー市場に転じ、新興国市場が今後の主戦場となる。この環境下で日本企業がグローバル競 争を勝ち抜くには、今までとは違った戦い方が求められる。  異なるルールや異なるコスト構造を持ち込んで攻めてくる海外勢と互角に戦うためには、 利益率を高めて資金力をつけたり、ビジネスモデルを転換したりする必要がある。国境や 業種の枠組みを越えた合従連衡や事業再編も避けては通れまい。景気回復に安堵(あんど) し、変革の必要性を忘れてしまっては、日本企業は閉塞(へいそく)感を打破できないだ ろう。 (本稿は、2010 年 5 月 25 日 日本経済新聞夕刊「十字路」に掲載されました)