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2011年8月24日
震災後の日本企業の一大変化
チーフエコノミスト
増田 貴司

 意外と見落とされがちだが、東日本大震災が起きた後の経営環境の激変に対応し、日本 企業の行動に大きな変化が生じている。  第1に、円高対応のため、あるいは新興国市場を開拓する目的で海外生産シフトやM& A(合併・買収)が活発化している。  第2に、過剰な多品種少量生産や過剰品質を見直す動きや、本質的でない部品を特注品 から標準品に切り替える動きが増えている。  第3に、国内勢同士の競争で体力をすり減らすのではなく、主戦場である海外市場での 競争力強化に力を注ぐために、国内の事業を再編する企業が増えてきた。  これらはどれも震災前からあった動きではある。確かに、日本企業は震災後に新たな行 動を始めたわけではなく、従来の計画を粛々と進めているか、前からやっていたことを一 歩踏み込んで実行している例が多い。  だが、明らかに震災を境に潮目は変わった。震災後の事業環境の悪化は、多くの企業が 自社の立地戦略や競争力、事業の定義を見つめ直すきっかけになった。避けて通れない課 題と認識していながら、これまで先送りしてきた経営革新や成長戦略に覚悟を決めて取り 組む契機になった。  パナソニックが子会社の三洋電機の白物家電事業を中国の家電大手、海爾集団(ハイア ール)に売却した例、日立製作所と三菱重工業による主力事業の統合に向けた協議が浮上 した例なども、数年前の日本企業なら考えられない形の事業再編だ。日本企業が生き残り をかけて革新に踏み出したことを象徴する事例と位置づけることができよう。  戦後最大の苦境だというのに、政治の混迷と無策が続く日本の現状は、まさに国民経済 の存亡の危機といえる。だが、政治への絶望感が個々の企業の自律的な経営革新を加速し ている側面にも注目したい。ここにこそ、日本経済復興への原動力が宿っている。 (本稿は、2011 年 8 月 19 日 日本経済新聞夕刊「十字路」に掲載されました)