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2013年5月9日
3D革命とどうつき合うか
チーフエコノミスト
増田 貴司

 3 次元(3D)データをもとに手軽に立体物を造形する機械である 3D プリンターが、今脚 光を浴びている。これらのデジタル工作機器の小型化、低価格化が進み、誰でも手が届く ようになった結果、新たな産業革命が起こる、といった論調が盛んだ。  「こんな技術は昔からあった」「3D プリンターは“魔法の箱”ではない」などと、冷や やかに見る専門家もいる。確かに、今の「3D 革命」論は騒ぎ過ぎの面もあり、軽薄なブー ムは早晩終わるだろう。  しかし、3D生産技術はその後もじわじわと産業や社会の構造を変えていく可能性がある。 革新的な技術は、初めはみすぼらしい姿で登場してくるものだ。パソコンや携帯電話も、 登場当初には予想もつかないような影響を 10~20 年後の経済社会にもたらした。 製造業は 3D 革命とどう向き合えばいいのか。3 点指摘したい。  第 1 に、個人がものづくりで起業できる時代が来たことが強調されがちだが、3D 機器の メリットを最も享受できるのは既存の製造業だ。金型を使わずに一品一品違うデザインの ものを低コストで製造できる、複雑な形状の部品の一体造形が可能になる、といった利点 を活用できる。  第 2 に、3D 機器は試作の期間短縮や低コスト化をもたらすだけでなく、開発段階でコミ ュニケーション・ツールとして活用できる点が重要だ。手軽に造形できるため、何回でも 試作し、実際に形を作って見せることで関係者の間でアイデアを交換でき、質の高い共同 作業が可能になる。  第 3 に、3D 機器は単なるコスト削減の道具ではなく、企業の競争力強化のための武器に なると認識すべきだ。日本人は IT(情報技術)を業務効率化やコスト削減の道具とみなし、 新たな価値創出のために活用するのが苦手だが、3D 革命の果実を手にするためにはこの点 を克服する必要がある。 (本稿は、2013 年 5 月 9 日 日本経済新聞夕刊「十字路」に掲載されました)