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2014年11月28日
アナログ技術が創出する新市場
チーフエコノミスト
増田 貴司

 富士フイルムのインスタントカメラ「チェキ」が人気を呼んでいる。デジカメの普及に伴い、チ ェキの市場は縮小していたが、近年人気が盛り返し、出荷台数はデジカメを上回る規模に拡 大した。2007 年に韓国のドラマで使われたことがきっかけで、韓国や中国の若い女性の間で ブームになり、その波が日本に逆上陸した形だ。  撮影したその場でプリントしたり、余白にメッセージを書き込んだりできることや、フィルムな らではの独特の写真の風合いが、若年層にとって新鮮な魅力となっている。デジカメしか知ら ない世代は、撮った写真が液晶画面に映るのではなくて、モノとしてプリントされて出てくるこ とに驚きを感じ、全く新しい商品と捉えている。  今なぜインスタントカメラが支持されるのか。デジカメや普通のフィルム写真とは違ってコピ ーや焼き増しができず、どの写真も「世界でただ1枚」である点が最大の差別化要素と思われ る。デジタルでは得られない、アナログのもつ唯一性や質感が人間の感性に訴える価値を生 んでおり、記念日の贈り物やイベントを盛り上げる道具として重宝されている。  チェキのヒットは、経営戦略の面でも示唆に富む。インスタントカメラ市場は、米ポラロイド 社が破綻して以降、富士フイルムが事実上の独占メーカーになっている。祖業のフィルム事 業を縮小する中で捨てずに保持していた技術のおかげで、同社は残存者利得を手にすること ができた。競合不在の上、アナログ技術のため他社には模倣困難で、価格競争に陥りにくい。 単にモノを売るのではなく、感性に響く新鮮な体験という「コト」を提案した点も重要だ。  捨てずに保有している枯れた技術は、うまく使えば新たな市場の創造につながることを、本 事例は教えてくれる。 (本稿は、2014 年 11 月 28 日 日本経済新聞夕刊「十字路」に掲載されました)