close

2021年2月2日
【世界経済評論IMPACTコラム原稿】
2020年代の日本企業を待ち受ける二つの障壁 保護主義と地球温暖化防止
部長(産業経済調査部)
 チーフエコノミスト
福田 佳之

日本企業の競争力は過去20年間で低下の一途  日本の平均賃金の水準が国際的に低いことは知られた事実である。OECD統計で見ると、2019年時点で38,618ドル(2019年価格水準、購買力平価)であり、統計対象35ヵ国平均(43,595ドル)よりも5,000ドル程度低い。過去20年間を振り返っても、35ヵ国の平均賃金は3.4万ドルから4.3万ドルへと年率1.2%で増加してきたのに対して、日本のそれは3.7~3.8万ドルとほぼ横ばいで推移するのにとどまった。他に世界各国の貿易収支や世界の企業株式時価総額で見ても、日本や日本企業の水準はもはや高くない。  こうした状況について日本企業の経営の視点から考えると、国際的な競争力の低下という議論につながる。過去20年間の世界経済や企業経営の変化を見ると、中国が世界の工場として地位を確立し、中国企業が世界において存在感を発揮しているだけでなく、米国や中国でプラットフォーマーが台頭してビジネスモデルを変え、収益の飛躍的拡大を成し遂げてきた。それに対して、日本企業はこうした情勢変化、とりわけ後者の変化への対応が遅れ、電機産業は見る影もなく後退し、自動車産業だけがなんとか国際競争力を維持してきた状況である。だが、その自動車産業もコネクテッド(Connected)、自動化(Autonomous)、シェアリング(Shared & service)、電動化(Electric)のいわゆるCASEの世界的な潮流にあらがえず、100年に一度の変革期の中で生き残るために自ら変身せざるを得ない状況である。 保護主義は依然として懸念材料  さらに日本や日本企業にとって不利な材料が増えている。世界的な保護主義の高まりと地球温暖化防止の動きである。WTOによると、2009年以降に採られた輸入制限的な措置は、2017年のトランプ大統領の登場で急増して2019年時点で世界合計1,646件に上り、その輸入規模は世界の輸入全体の8.7%に上る。2020年は新型コロナの感染拡大で世界80ヵ国以上がマスクなどに対する貿易規制を導入する動きもあった。今後について米中間で引き上げられた関税が注目されているが、保護主義を助長したトランプ大統領が退任してバイデン政権が発足したとしても、米中対立そのものは長期にわたって続くことから米国が中国に対する強硬姿勢を転換して関税を即時撤廃するとは考えられていない。日本が経済成長を持続的に実現するには、比較的高い海外の経済成長を頼りにするしかなく、そのためには海外と自由な貿易体制を維持することは依然重要である。さらにサプライチェーンが国境を越えて張り巡らされているため、保護主義の高まりはただちに生産・投資に多大な影響を及ぼす。世界で保護主義が続くことは日本の持続的な経済成長の前提を崩しかねない。 温暖化防止はまず国際間連携で  地球温暖化防止の動きについては2020年10月に菅首相が、2050年までに温室効果ガス排出を全体としてゼロにする、いわゆる2050年カーボンニュートラルを発表した。12月には成長戦略会議で「グリーン成長戦略」を明らかにしており、電力部門における脱炭素化、電力部門以外は電化、熱需要は「水素化」「CO2回収」で対応するとしている。ただ地球温暖化防止は、その有力な手段である太陽光や風力など再生可能エネルギーの立地を見つけやすい大国が有利であり、国土狭く適地が少ない日本にとっては安価な再エネ獲得の点では厳しい状況に追い込まれる。日本が温暖化防止を進めるには、まず国際間連携を進めることがカギであり、例えば、国境を越えたエネルギー協力を進めていくのも方策の一つである。ただそのためには周辺国との協調が欠かせないが、保護主義の高まりはそれを阻害する恐れもある。  保護主義の打破と温暖化防止の取り組みが2020年代の日本および日本企業の再生の行方を占うだろう。 (本稿は、国際貿易投資研究所(ITI)1月18日付「世界経済評論IMPACT」に掲載されました)