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2012年5月24日
輸出振興による雇用創出で、雇用の空洞化回避を
「大失業時代」の回避に向けて求められる対策
シニアエコノミスト
福田 佳之

 東日本大震災以降、日本の製造業は、法人税率の高さや FTA 締結の遅れ、円高など従来 からの問題に加えて、電力供給の制約という課題を抱えてしまった。これらの問題が日本 の産業空洞化を加速させ、これまで守ってきた雇用の喪失を懸念する声が聞かれている。  経済産業省は、空洞化が深刻化したシナリオを想定して労働市場の悪化を試算したとこ ろ、2010 年から 20 年までの 10 年間で雇用は 476 万人失われ、失業率は平均 6.1%まで悪 化するという。  「大失業時代」の到来である。 輸出振興で 100 万人の雇用創出を  「大失業時代」を回避するためには、なりふり構わず雇用創出にまい進する必要がある。 経済産業省は、攻めの空洞化対策の一環としてヘルスケアや環境・エネルギーなど潜在需 要の大きい内需型産業の成長に期待を寄せているが、そう簡単にはいかないだろう。  まず、国内市場は人口減少と内需縮小で持続的な高成長が期待できない。次に、拡大す る高齢層市場は、所得や嗜好等の点で若年層よりもバラエティに富んでいて、効率的に開 拓することは難しい。期待が高まるヘルスケア産業にしても、その成長には保険料のさら なる引き上げや規制緩和が不可欠で、時間がかかる。  今後の空洞化を防ぐためには、これまで同様に輸出型産業に頼るしかない。筆者の試算 では、輸出振興が功を奏せば、減少している雇用に歯止めがかかり、5 年後には 100 万人を 超える雇用の創出につながり、「大失業時代」を回避できると見ている。  輸出型産業を振興するには、まず国内の人為的な高コスト構造にメスを入れることだ。 具体的には、法人税率引き下げや規制緩和、特区の設置が挙げられる。また、有力な貿易 相手国と経済連携協定(EPA)を締結して関税等の貿易障壁の除去に動き、有利な対外環 境を醸成する必要がある。 無形価値で新たな輸出産業を育成  次に、新たな輸出産業、特に世界に一つしかない輸出産業を育てることだ。対象産業は、 日本の強みである、目に見えない無形価値で勝負できる産業である。例えば、日本の農産 物・食品や工作・建設機械などには、安全・安心、健康、おもてなし、きめ細やかさなど ユニークな価値を持つ財やサービスが目白押しだ。こういった無形価値を前面に出して輸 出促進を図れば、世界でライバル企業はいないために価格競争に巻き込まれないし、円高 にも対応できる。 大量普及型のビジネスモデルが必要  最後に、電機や自動車などの既存産業に対してビジネスモデル再考による輸出振興を求 めたい。海外では新興国の中間層が台頭して高成長をもたらしており、こういった層に低 価格品で大量普及を前提とするビジネスモデルで対応せねばならない。現状では、日本企 業は垂直統合の形を取って事業展開しているため、生産などのコストが高くつき、中間層 を攻略できない。そこでグローバル化や標準化を駆使した新たなビジネスに取り組んでみ てはどうだろうか。具体的には、生産コストを大幅に下げるために、海外地場企業との連 携や部品の標準化に着手する一方で、生産工程のコア部分については自社内だけで手がけ てブラックボックス化を行い、付加価値を高めるのである。  コスト競争ではなく付加価値競争の勝負にもっていき、自社に収益と雇用をもたらす仕 組みをいかにして作り上げるか。輸出型産業の企業人には、現在の「やせ我慢」のコスト競争からの脱却と付加価値重視のビジネスモデルの構築を望みたい。 (本稿は、公益財団法人 日本生産性本部「生産性新聞」2012.5.15 日号に掲載されました)