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2015年10月28日
観察可能になると革命が起こる
チーフエコノミスト
増田 貴司

 生物の構造や機能などを模倣して、工学分野などに応用する「生物模倣技術」が、近年急 速に発展している。この背景には、高性能の電子顕微鏡の普及により、生物の微細構造を緻 密に観察できるようになったことがある。  観察できなかったものが観察可能になると、革命的な変化が起こることは、人類が何度も 経験してきたことだ。古くは、西洋で 13 世紀に羅針盤(方位磁石)が開発されたことにより遠 洋航海が可能になり、大航海時代が訪れた。また、反射望遠鏡がニュートンによって開発さ れ、普及したことは、その後の天文学の発展に大いに寄与した。  そして今、インターネット、携帯電話、SNS などの通信技術の発展により、人間の活動や社 会的ネットワークに関する広範なビッグデータが利用可能になった。膨大な交信履歴、ウェブ 検索履歴、購買履歴、GPS(全地球測位システム)データなどから人間行動を精緻に間断なく 観察・計測できるツールを、我々は歴史上初めて手に入れた。  このことは、顕微鏡や望遠鏡が生物学や天文学の発展を促したのと同様に、社会に大きな 変革を起こすエンジンになるだろう。現に、アイデアや情報の流れが人々の行動にどんな変 化をもたらすかを考察する社会物理学の研究成果を活用して、組織の生産性や創造性を向 上させる取り組みが進んでいる。  この分野では従来の常識とは異なる、人間に関する新しい洞察が続々と生まれている。会 議の参加者全員が平等に発言すると、集団のパフォーマンスが上がること、人の身体運動の データが幸せの定量化につながること、などがその例だ。  ビッグデータ解析から得られたこれらの知見を実際のビジネスや課題解決に活用するには、 経営者層の柔軟な発想と理解が必要不可欠である。 (本稿は、2015 年 10 月 28 日 日本経済新聞夕刊「十字路」に掲載されました)