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2013年10月10日
境界線が消える時代の経営課題
チーフエコノミスト
増田 貴司

 最近、異業種から現れた思わぬ競争相手に既存の企業が顧客や市場を奪われる事態が頻 発している。その代表的な震源地はスマートフォン(スマホ)である。スマホは 1 台の端 末で音楽プレーヤー、カメラ、ゲーム機、カーナビ、電子辞書など複数の役割を果たすこ とができる。このため、別々の業界で発展をとげてきた多くの商品がスマホと競合し、市 場縮小の危機に見舞われている。  こうした異業種間競争が増加した最大の理由は、情報技術(IT)の進化により、様々な モノとモノ、モノとヒトがネットワークでつながったことにある。そのおかげで、どのよ うな業界にいる人間でも、低コストかつ短時間で自分のアイデアを事業化することができ るようになった。新規参入のハードルが下がり、従来不可能だったビジネスモデルも実現 可能になった。  今、あらゆる業種の境界線が揺らぎつつある。自社とは全く違ったタイプの企業との競 争に突如巻き込まれかねない、怖い時代が到来した。  だが、これは同時に、自社が新たなアイデアを生み出し、業種の境界を越えた競争を仕 掛けることが容易になったということでもある。境界線の消滅と新たな敵の侵入に脅える ばかりでなく、自分が攻めに転じ、業界の垣根を越えて成長することを考えるべきだ。  こうした時代を生き抜くには、企業は広い視野から世の中を観察し、異業種の動向を注 視し、研究することが重要になってこよう。異業種に注目するのは、潜在的な競争相手を 早期に発見し、彼らとの競争に備えて自社のとるべき戦略を考えるためだけではない。他 の業種の事例を学ぶ中から、自社が同質的競争を抜け出すための新たな事業モデルを着想 するヒントが得られる可能性があるからだ。  「ヨソの業種のことなど気にしている暇はない」と言っている企業は危ないと思う。 (本稿は、2013 年 10 月 10 日 日本経済新聞夕刊「十字路」に掲載されました)