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2010年10月25日
新興国市場としての中東地域②
チーフアナリスト
永井 知美

 前回は、中東地域は中国・インドといった他の新興国に比べて注目度は低いものの、人 口増加率が高く、中間層が増加しており、日本製品を高く評価していることなどから有望 市場に成長する可能性があることを確認した。  今回は、中東地域の中でも所得水準が高く人口規模が比較的大きいサウジアラビアとア ラブ首長国連邦(UAE)、人口規模が大きく経済成長が期待されるエジプト、トルコの 4 ヵ 国を分析対象として、自動車市場の現況と日本企業の取り組み・競合状況を見ていきたい。  中東と一口に言っても国により経済状況は大きく異なる。産油国であるUAEとサウジアラ ビアが新興国としては高所得であるのに対し、非産油国であるトルコ、エジプトの所得水 準は高いとは言えない。自動車市場は、2009 年の販売台数がUAE30 万台、サウジ 48 万台、 トルコ 56 万台、エジプト 21 万台1 と小規模だが、サウジ、トルコを中心に需要拡大が見込 まれる。トルコは自動車・家電産業の発展による所得増加、サウジは堅調な原油価格と人 口増加により需要増が予想されるためである。  中東の自動車市場は産油国か非産油国で状況が異なる。産油国である UAE とサウジの自 動車市場は原油価格との連動性が高く、欧州大型車、GM 大型車、日本車の人気が高い。UAE ではトヨタ自動車、三菱自動車、日産自動車、本田技研工業の 4 社でシェアの 5 割超を握 っている。所得水準が UAE より低く貧富の差が大きいサウジでは、低所得者も多いため小 型車や韓国車にも一定の需要があるが、トヨタがシェアの 3 割超を占めトップにたってい る。  日本自動車メーカーは、高所得国である UAE とサウジでは、中間上位層~富裕層の支持 を受け、新興国市場の中でも有数の成功をおさめていると言える。酷暑や砂嵐にも耐える 日本車への信頼は非常に厚い。今後、品質を向上させている韓国メーカーとの競合が激化 すると見られるが、日本メーカーはいたずらに価格競争に走ることなく、ブランドと品質 の維持に注力すべきだろう。  一方、トルコ、エジプトといった中低所得国では日本車の存在感はやや薄い。トルコ自 動車市場はフィアット、フォード、ルノーなど欧米メーカーがシェア上位を占め、トヨタ がシェア 8 位、本田が同 9 位と伸び悩んでいるのに対して、現代自動車が品質向上・お手 ごろ価格・豪華な外見でシェア 4 位に急伸している。低所得国のエジプトでは、トヨタが シェア 3 位、日産が 6 位と、現代自動車(2 位)、韓国・起亜自動車(4 位)、中国・奇瑞自 動車(5 位)に押され気味である。韓国メーカーは品質・デザイン性向上と値ごろ感、中国 メーカーは低価格を武器にプレゼンスを拡大させている。  中東市場における日本メーカーの課題は、韓国・中国メーカーに侵食されつつある中間 層をターゲットとしたビジネスである。中でも韓国車は、中東地域への進出当初、外見は 立派であるが酷暑でワイパーやフロントガラスが溶けるなど、品質面の問題が指摘されて いたが、近年、品質・デザインを向上させており要注意である。  中間上位層~富裕層相手のビジネスは、日本でのビジネスモデルがかなり通用し、利益 率も高いが、マーケットが小さく高成長も期待できない。中東市場向けの新たなビジネス モデルを確立する必要はあるが、今後最も期待できるのは中間層ボリュームゾーン相手の ビジネスである。現地ニーズを探り、この層でも手の届く製品の投入を急ぐ必要がある。 (本稿は、財団法人 日本生産性本部「生産性新聞」2010.10.25 日号に掲載されました) 1 本稿の自動車販売台数、市場シェアはFOURINによる 2009 年の数値。