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2011年3月1日
調査研究における帰納法と演繹法

 2月12日の朝刊によると、混乱が続いていたエジプトでついにムバラク大統領が辞任したようである。軍最高評議会が国家運営のための権限を掌握したが、軍による全権掌握は、選挙で選ばれた新政府発足までの一時的な措置との考えが示されているようである。エジプトが今後どのような方向に進んで行くのかが明瞭になるまでには、今しばらく時間が必要と考えられる。   ところで、この間の各種報道を見聞していて感じていたことであるが、どうも報道の姿勢に固定された視点が見え隠れしていたように思える。すなわち、まず民主化を求める民衆=善、強権の権力者=悪、といった先入観があり、それに適合する観察結果のみが報道されたような気がするのは筆者だけだろうか。ムバラク大統領による強権政治が30 年間も続いた事情、宗教的葛藤、大統領辞任までの軍の分かり難い動きなど、背景には非常に複雑な事情があると思われるが、分かり易いとは言え、あまりにも単純化した図式で報道がなされた感じがしてならない。   この間の事情は、我々の行っている調査研究にも通じるものがあるように思われる。筆者は実験的な積み重ねを重視する工学部出身であるせいか、あまり先入観を持たずに個々の調査事実を積み重ねていく傾向がある。どちらかというと泥臭い調査を行い、個々の事実に結論を語らせるという行き方である。一方調査をスタートする時点で既に求めるべき結論を描いていて、その結論に沿う形で調査を進めていくパターンも見受けられるようである。夫々に一長一短があり、前者は個々の調査事実に基づき比較的正確であるが、結論に達するまでにかなり時間がかかる、あるいは明確な結論に達しない場合もあるのに対して、後者は事実の網羅性という面ではやや問題があるが、調査がスピーディーで結論が分かり易いという特徴がある。   筆者はそれぞれを帰納的調査法、演繹的調査法と名付け、帰納的調査にひそかにこだわってきたのであるが、果たしてこれらは相反する行き方であっただろうかというのがこんにちの反省である。考えてみれば、調査の顧客が求めるのは、エジプトの報道の例(この場合の顧客は新聞の読者であろう)でも分かる通り、明確な結論であることが多い。また「帰納的」と考えていた工学的な実験においても、実は最初にある仮説を設定し、それを検証する形で個々の実験を積み重ねていくことが多い。そこでは「演繹的」な推論と実験の組み立てが行われているのである。結論に対してネガティブな調査結果も大切にすることがあくまでも前提となるが、「帰納的方法」と「演繹的方法」を融合させる視点を持つことで、顧客満足度の高い調査をスピーディーに、低コストで行えるようになると考えた次第である。