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2022年6月23日
「抽象化」する力を高めよう
取締役 エグゼクティブエコノミスト
増田 貴司

 わが国には「具体論が重要で、抽象論は役に立たない」という固定観念が根強く存在する。そのせいで、日本企業は物事を抽象化して考えるのが苦手だ。 「抽象」という言葉の本当の意味は「曖昧なもの」ではなく全体像を把握することである。現象の本質を捉えるには抽象化が必要であり、抽象化は企業経営に欠かせない能力だ。抽象化とは物事を一般化、単純化して考えることで、それによって知識や経験が再現可能、教育可能なものになる。技術革新の成果を部門や職種、業種、国籍などを超えて展開するには、抽象化して考える力が不可欠なのだ。  米国のコンサルタント会社が世界に広めている経営手法の中には、日本企業に源流があるものが多い(アジャイル開発、両利きの経営などがその例)。そうとも知らずに、日本企業は米国ではやりの経営手法をありがたがって後追いしている。こうなった理由は、日本が経営の実践一辺倒で、経営技術を抽象化してコンセプト化する力が弱いからだと慶應義塾大学の岩尾俊兵准教授は看破している。  抽象化して考える力の弱さが、日本でデジタルトランスフォーメーション(DX)があまり進捗しない原因の一つになっている。デジタル技術には、1つの仕掛けを作れば、特定分野の課題が解決できるだけではなく、異なる組織・業種・分野の課題まで解決できる可能性があるという特徴がある。デジタル化の進展により、汎用的な手法で広範な領域の課題解決や事業展開が可能になっていることに気づくことが重要だ。取り組みの本質を捉え、共通のロジックで語れるパターンを見いだす発想が求められる。  個別具体にばかり目を向けるのではなく、物事を抽象化、標準化する組織能力を高めることに注力すべきだ。 (本稿は、2022年6月22日 日本経済新聞夕刊「十字路」 に掲載されました)